コレンシウ伯爵とその子供たち

鹿島さくら

第1話

「ニック先輩、変死体が上がりました」

 スマートフォン越しの相棒の声で、残り1日あったはずの休暇は取りやめになった。少し早めのイースター休暇だったが、刑事という職業柄、仕方のないことだ。少ない荷物を手早くまとめたニコラが乗り込んだ首都行きの列車はガランとしていた。

(変死体が出たってのに呑気なモンだ)

 窓辺の席で一定のリズムに揺られながら、ニコラは自嘲する。少し離れた席では午前の暖かい日に照らされて老夫婦が船をこぎ、車窓の向こうに見えるブドウ畑では若い緑の葉が風にそよいで波立ち、春の陽を乱反射させている。どこまでも平穏で牧歌的な田舎の列車旅である。

(けど、俺が焦ったからって列車が早く走るわけでもねぇからな)

 ニコラがこみ上げるあくびをかみ殺して腕時計を確認すると、首都到着までまだ1時間はありそうだった。次に自販機が来たらコーヒーでも買うか、と思ったところで列車は次の停車駅に向けてゆっくりとスピードを落とし始めた。

『コレンシウ駅、コレンシウ駅……』

 アナウンスが車内に響いて列車が止まり、扉が開く。コレンシウ駅は駅前にマーケットや日用品店、郵便局や役所の出張所などが集まり、その周囲に農場、特にブドウ畑が広がるのどかな田舎である。だが列車に乗り込んできたのは、そんな田舎駅には不釣り合いに華やかな、そして奇妙な一団だった。

(男二人に……ロボット?)

 思わず二コラは首をかしげる。

 一団のうち、一人は背が高く、俳優を思わせる華やかな美貌の男。黄金色の巻き毛を長く伸ばしていて、歳の頃は30代の前半だろうか。もう一人はシルバーグレイヘアの老年の男である。ラフな格好の金髪とは異なり細身の身体を仕立ての良いスーツに包んでいる。だがその二人組以上に目を惹くのは、彼らにひっついて移動するロボットである。

「ポポ、大丈夫かい?」

 金髪の方に声をかけられたロボットは頭部パーツをコクンと一度縦に振って、ニコラの横を通り過ぎて自分たちの座席まで人間たちを先導する。

「ポポ、荷物を寄越してください。私が上げますよ」

 老年のスーツの方がポポと呼ばれたロボットの腹部に取り付けられた荷物入れに手を伸ばそうするが、それよりも早く機械の手が自分で荷物を持った。

「それには及びません、創造主さま」

 ロボットから発せられた機械音声はどこかあどけない子供のような声だった。その愛らしい響きと創造主さま、という言葉の厳粛さがミスマッチで、ニコラはこの奇妙な一団から目が離せなくなってしまう。

(コーヒー買ったら寝ようと思ってたのに、なんだか変なモン見ちまった)

 どこか恨みがましいその視線の先で、全長130センチほどのロボットが胴部分がガシャガシャと伸びて、手にした荷物を座席の上の網棚に納めていく。それが終わると脚部パーツを伸び縮みさせて人間たちと一緒にボックス席にちょこんと座りこみ、すっかり旅客の一人である。

(確かに愛玩用ロボってのあるが、座席まで用意して旅行に連れて行くパターンは初めて見るな)

 ニコラは半ば呆れながら、車両の連結扉に目を向ける。ふたたびゆっくりと首都に向けて走り出した車内に扉の開く音がして、自販機が入ってきた。

「飲み物、ホットサンド、お菓子、新聞、モバイルバッテリー等を販売しています。支払い方法はクレジットカード、交通系IC、各種QRコード決済に対応しています」

 高さ150センチほどの、大きなパネル付きのワゴンが足元のキャスターを転がして機械音声と共に通路をゆっくりと進んでいく。飲食店に配備されている配膳ロボットにAIと決済機能を搭載した代物である。ここローゼンブラウ公国においては、こういったAIを搭載した自律型ロボットが日常的に目にできる。ニコラが自動販売機に向かってひらりと手を振れば、パネルの表示が販売物一覧からにっこり笑顔に切り替わる。

「お待たせしました、何にいたしましょう」

「ホットコーヒーを頼む」

「かしこまりました。先に支払いをお願いいたします。決済方法はどれにいたしますか?」

 自動販売機のパネルが決済画面に切り替わる。交通系ICを選択してカードをかざすと、ブブーっと低い電子音が響き、パネルに「残金不足」の文字列が踊った。

「……しまった、そういやチャージし損ねたな。支払い方法を別に切り替えられるか?」

「申し訳ありません、支払い操作中の支払い方法切り替えには対応できません」

「げ、マジかよ」

 絶妙に申し訳なさそうなイントネーションの機械音声に、ニコラは参ったと頭を掻く。だがそこに爽やかな声が割って入った。

「不足分はこちらから取ってくれ」

 ピ、と軽快な音がして画面が支払い完了に切り替わり、排出孔からガコンと音を立てて缶コーヒーが落ちてくる。顔を上げたニコラの前に立っていたのは件のロボット連れの奇妙な一行の、金の巻き毛の男だった。目が合うと男は困ったように笑う。

「お節介だったらすみません」

「いや……ありがとう、助かった。ええと、不足分を」

「……ご丁寧にどうも」

 唖然としたニコラが財布から小銭を出すと、男は恐縮しながらそれを受け取って自分の座席に戻っていく。その首元でひるがえるストールにさりげなく刺繍されたロゴが有名ハイブランドであるのを見つけて、缶コーヒーのプルタブを起こしながらニコラは改めてロボット連れの奇妙な一行を眺めやる。

(ハイブランドのストールにあの服、あっちのスーツも仕立てが良いし、貴族の若様とその執事と、よく分かんねぇけど連れのロボットってところか。まあ貴族なんざこの国ではそう珍しくも無いが……)

 ヨーロッパにあるこの小さな国はローゼンブラウ公国の名の通り、国家元首として大公を据え、貴族制度を保持する立憲君主国家である。第2次世界大戦前から一時は人民共和国を名乗る共産主義国家だった時代もあるが、他国に先駆けて1980年代前半に共産党政権が崩壊したのをきっかけに、貴族制と大公を復活させた。以来、国を貫く河川と広大な農地を生かした農業と、豊かな自然と複雑な歴史と吸血鬼伝説を生かした観光を軸にして、国家運営に励んでいる。

(マークからの追加連絡は無し、か。こりゃ口頭で説明した方が早いような厄介な案件だな)

 暖かい缶コーヒーをすすってチラと視線を注いだ仕事用のタブレット端末は沈黙を保っている。こうなるともう車中の人にすべきことはなく、ニコラは諦めて車窓に広がる畑の連なりを眺めながら目を閉じた。

「終点、アーテルベン中央駅、アーテルベン中央駅。本日もローゼンブラウ鉄道をご利用いただき誠にありがとうございます。終点、アーテルベン中央駅です」

 ふとニコラが目を覚ますと、列車は既にローゼンブラウ公国首都、アーテルベンに到着していた。あくびをして頭上の網棚から荷物を取り出し、人の行きかうホームに降りて背伸びをすると、良く晴れた空が視界いっぱいに飛び込んできた。

 アーテルベン中央駅は吹き抜け構造を軸としたアールヌーヴォー風のガラス張りのデザインが美しい駅である。人気観光国ローゼンブラウの玄関口として国内外からいくつもの線路が乗り入れ、自動改札口の上には「吸血鬼の国ローゼンブラウへようこそ」の垂れ幕がかかっている。

「アレ見ると帰って来たって感じがするわ」

「ほんとほんと。吸血鬼の国、僕らの国」

 その垂れ幕を指さす若い男女のはしゃいだ声がし、ニコラはそちらに目をやる。パリ経由でロンドンから来た列車から降りてきたのは、仕立ての良い春物のジャケットを翻すブルネットの少女と黒髪の青年の二人組だった。青年の歌うような言葉に少女はくすくすと笑う。歳の頃は10代後半か20代前半、双方、派手ではないが整った容姿をしている。荷物を片手にホームに立ってしばし周囲を見回していた彼らは、にわかに瞳を輝かせ、互いの顔を見合わせるとひとつ頷いて手をつないでそちらに小走りで向かっていく。

「伯爵、テオドールとアビゲイルがただいま御前に戻りました!」

「ダニーさん、ポポさん、久しぶり!」

 その先にいたのは、あの奇妙なロボット連れの貴族の一行だった。金髪の貴族は向こうから駆けてきた彼らを前に困ったように笑っている。

「アビーもテオもせっかくの休暇なんだから向こうで友達と遊んできても良かったんだぞ? ああ、そうだ、体調はどうだ? 元気にやっているか?」

「はい、おかげさまで大事なく。私もテオも元気ですわ」

「僕らの戻る場所は閣下の御前と決まってますから。それに、前に閣下が好きっておっしゃってたお菓子を向こうで手に入れたのでみんなで一緒に食べたくて」

 慇懃に一礼した青年の隣で、少女がロボットの頭部パーツを撫で繰り回しつつ執事に笑いかける。

「ダンさんもポポさん元気だった?」

「おかげさまで。お二人も元気そうで何よりです」

「当機のエネルギー充填率、95%。先日創造主さまによるメンテナンスを受けたため、状態も万全。めっちゃ元気」

 その場でくるりと円を描いて回って人間のように元気、と腕を上下させるロボットを遠目に見ながらニコラは改札をくぐる。

(あの金髪と、ロンドンから来た二人組は親子にしちゃ年が近いし、親戚……叔父と甥姪ってところか?)

 奇妙な一団が気になってしまうのは刑事としての職業病のようなもので、そんな自分に呆れながら人でごった返す壮麗な巨大コンコースに出る。あちこちに設置された土産物屋には吸血鬼をモチーフにした菓子やVamp Fangと銘打たれたワインが並び、書店には「吸血鬼関連書籍」のポップが派手に店頭に踊っている。一番人気は冒険娯楽小説のシリーズ本のようで、鋭い牙と尖った耳を誇らしげにさらす美貌の吸血鬼の特大ポスターが飾られている。興味深そうにそちらに吸い寄せられていく観光客を横目に駅の外に出ると、傍に停まっていた車がクラクションを鳴らして窓を開けた。

「ニック先輩、お疲れ様です。迎えに来ましたぁ~」

 気の抜けた声がして、運転席に座っていた背の高い赤毛の男がヒラヒラと手を振った。

「マーク、来てくれたのか」

「そりゃ、どの列車でこっちに戻るか聞いてましたから」

 車の扉が開いてニコラが慣れた仕草で助手席に座ると、ハンドルを握るニコラの後輩兼相棒マーク・アンガスは何気ない口ぶりで言う。その癖のある赤い髪は職務規定違反ギリギリの長さで、両目が隠れてしまっている。口元のへらっとした笑みも相まって、到底刑事には見えない。

 先輩刑事がシートベルトを締めたのを確認すると、後輩刑事マークは窮屈そうに折りたたんだ長い脚でアクセルを踏み、車は滑らかに首都の大通りを西に向かって走り始めた。

「荷物もあるし、ひとまず官舎まで行こうと思うんですけど」

「いや、例の変死体が見つかった現場に直接行ってくれ」

「……わかりました」

 歴史的な美しい建築物を左右に眺める車内で、マークはどこまでも真剣なニコラの横顔を見つめる。いかにも生真面目そうな顔立ちとそれを裏切らないニコラの実直な人間ぶりが、マークは結構好きだった。

(警察になったことが嫌になるときもあるけど、この人とならまあ別にいいかなって思えちゃうんだよね)

 口笛でも吹きたくなりながら、誠実な刑事ニコラの後輩はなめらかな動きでカーブを切って目的地に向かった。

「例の変死体の発見場所はこの首都アーテルベン郊外、テリオンの森です。発見時間は今朝の7時半ごろ、この森を通る清掃業者のトラックが木の枝に引っかかっていた変死体を発見したそうです」

 目的地に到着し、黒と黄色の規制テープの傍に車を停めたマークが傍に立つ大木を指さして説明する。普段は大都市近郊のオアシスとしてのんびりとした雰囲気が売りの大公園テリオンの森であるが、今ばかりは野次馬とメディアがおしかけて騒がしい。若手刑事たちはそれを押しのけ、現場の警備にあたっている警察官に警察手帳を見せて規制テープをくぐる。大木の周囲では白い防護服に身を包んだ鑑識班が証拠となりそうな物を採取し、さかんに写真を撮っていた。

「木の枝に引っかかっていた?」

「あそこです」

 ニコラの疑問に答えるようにマークの指先が木の幹から空へ向かって宙をなぞり、不自然に折れ曲がった枝のあたりで止まった。地上から10メートルほどの高さにある枝だ。木の傍まで歩み寄って頭上を見上げ、ニコラは眉間にしわを刻む。

「かなり高いな。それに、よほど木登りが得意でなければ登りにくそうだ。発見時の遺体の状態は?」

「発見された遺体は、ミイラのように乾ききっていました。首の小さな傷以外に目立った外傷は無し。身長に反して身体が不自然に軽く、鑑識曰く体内の血液がすべて失われているのではないか、と。……にわかに信じがたいことですが。死亡推定時刻は深夜0時から2時の間。遺体は既に本庁で検死に回っています」

「……なるほど、変死体だ。周辺の監視カメラは?」

「まず、ここを直接移す監視カメラはこの通りです、ありません」

 先輩刑事に問われてマークは周囲の木々を見渡してから、向こうの遊歩道を指さした。遊歩道の向こうには柳の木がそよぐ池と川が見える。休日であれば小舟が浮かび、人々が集いのんびりと過ごす憩いの場だが、今ばかりはそうもいかない。

「あっちの遊歩道を写す監視カメラがあるのでそれを確認してもらっていますが、死亡推定時刻の前後1時間には何も映っていなかったようです。現在、チェックする監視カメラの数を増やしていますが、時間がかかると思います」

 ニコラの眉間の皺がますます深くなる。マークは参ったとばかりに癖のある赤毛をかき回して手元のメモを開いた。

「公園の管理人や第一発見者にも既に話を聞きましたが、彼らにはここ24時間のアリバイがあります。また、双方とも死体を見たことに強く動揺していました。本業の僕ですら思い出すだけでコレなんだから、そりゃ普通の人なら……」

 マークの大きな手が震えてメモが草の上に落ちる。彼の先輩はそれを拾ってやり、その大きな手を暖めるように握った。

「大丈夫か? 戻りの車はおれが運転する」

 鑑識の人々から一通り話を聞くと、ニコラはマークと共にアーテルベン中央区にある警察庁本庁に向かった。何はともあれ、一度上司に捜査について指示を仰がなくてはいけないし、遺体そのものも見ておかなくてはいけない。車内のラジオをつけると、国営放送や地方放送局のニュース報道は今朝テリオンの森で見つかった死体についての話でもちきりだった。ニコラが首都に戻る列車の中で確認したそのニュース配信サイトのトップ記事もこの一件だった。

「どこも遺体の損傷が酷い、という表現で統一されてますね。パニックやゴシップを避けるために上が報道規制をかけたんでしょう」

 マークが助手席で言いながら、ネクタイを緩めてため息をつく。顔色が悪いのは例の変死体を思い出しているからだろう。ニコラもなんとなく気が重い。

(嫌な予感がする。身元の特定はスムーズに進むだろうか。再犯の可能性があるならまずそれを防がないといけないし……)

 ニコラはローゼンブラウ公国一の名門大学を卒業してから警察学校に入学し、以来約10年間刑事としての仕事に励んでいる。時に食事の暇すら惜しんで捜査のために走り回ってきたが、あんな異様な場所で見つかった変死体を相手にするのはこれが初めてだった。小説やドラマでは定番とも言うべき「おかしな状態で発見された変死体」だが、現実でそんなものに相対することなどほとんど稀なのである。


***


 警察庁に到着し、ひとまず直接の上司である捜査1課の課長に休暇明けの挨拶をして指示を仰いだニコラ刑事は大きくため息をついた。

「参ったな、おれとお前の二人だけで今回の事件を解決しろって? そりゃ、最近の行方不明届けの増加に人手を割いてるのは分かるが……」

「今後出る情報によってはこっちも捜査本部を立てて大人数での組織的捜査になるとは思いますけど、ローゼンブラウは観光大国ですからねぇ」

 マークはどこかのんびりとした口調で言いながら、窓から庁舎の外を眺め下ろす。キャリーバッグを下げ、あるいはスマートフォンを構えて、クラシックな建物群の官公庁街を撮影する旅行者たちの姿が見える。

「ローゼンブラウで行方不明者が出てる、なんて噂が流れて足が遠のいたら困るんでしょう。何より行方不明者の多くが認知症患者ではなく、まだ若い健康な人々で、旅行者や出稼ぎ労働者もいる」

 言いながらマークが先輩刑事に見せたスマートフォンのSNSアプリには、「行方不明」の文言が含まれたユーザーたちの投稿がズラリと並んでいる。マーク・アンガスは声を潜めた。

「これはローゼンブラウの治安の低下そのものだし、一部じゃ組織的犯行だって噂もあるみたいですよ。上層部としては、公安も巻き込んで早いところこの行方不明者増加の件にカタをつけたいんでしょうねぇ」

「こっちに回す人では無し、か」

 後輩兼相棒の言葉に仕方がない、とため息をついたニコラは、ひとまず鑑識課に向かった。何はともあれ「テリオンの森変死体事件」のいち早い解決が彼らの仕事であることに変わりはない。

「ニック、間に合ってよかった。今から検死解剖をするところだったの」

 中庭を挟んだ別棟にある鑑識課に顔を出すと、長い髪を清潔にまとめた白衣の女性ミネヴァがにこりと笑った。刑事であるニコラとは付き合いの長い同僚だ。

「中をひらいちゃう前にキミにはきちんと見ておいてほしくて。……マーク、キミももう一度見ておく?」

 顔を青くした後輩刑事がそれでも果敢に首を縦に振る。二人はひんやりとした解剖準備室に通され、移動手術台に置かれた遺体収納袋の前に立った。中央のファスナーが開かれ、遺体の全身が露わになる。

「これは……」

 薬品会社から買い付ける特別製の防腐剤の独特のにおいにニコラが顔をしかめたのも一瞬のこと。遺体は何もかもが異様だった。表情は、強いて表現するのなら苦悶のそれ。開いた口の内側に生えそろった歯のうち、上下に2本ある犬歯が牙と呼べるほど鋭く尖っているのが見て取れる。耳は鋭くとがっており、その下、首筋には大きな穴が縦に二つ並んで穿たれており、そこからわずかに血痕が伸びている。しかし何よりも異様で、ニコラに否応の無い不安感を与えたのは不自然なほどにかさついて乾燥した肌だった。そのせいでぱっと見では年齢どころか性別まで判断しづらい。

「一体、何をどうしたらこんな状況になるんでしょう。それに全身の血が失われていたというのも、この首元の怪我と関係があるのでしょうか?」

「それに、この尖った犬歯と耳。これじゃあまるで……」

 ニコラとマークがソレを言ってしまわなかったのは、現代に生きる刑事としての良識ゆえだった。けれどその努力をあざ笑うように場違いなほどに優雅な声がソレを口にした。

「これではまるで吸血鬼の犯行で死んだ吸血鬼、だな」

 耳慣れない声に二人の刑事が全身を緊張させて背後を振り返る。いつの間にこの部屋に入っていたのか。そこに立っていたのは、今朝の列車に同乗したあの金の巻き毛の男だった。あのロボット連れの奇妙な貴族の一行の、美貌の貴族本人である。その両隣には、アーテルベン中央駅でその一行に合流した少女と青年が寄り添っている。

「お前たち、どこから入った。気配がしなかったぞ。本当にただの貴族か?」

「ここは関係者以外立ち入り禁止なの。どなたか知らないけど、早いところ出て行ってもらえるかしら?」

 ニコラが鋭い第一声を発すると、鑑識のミネヴァが壁の緊急呼び出しボタンの傍に近寄る。だが侵入者たちは遺体収納袋の中を覗き込んだまま、警告には動揺の一つも示さなかった。

「そういうわけには参りません」

「この件に関しては、伯もあなた方と同等の捜査権をお持ちですから」

 青年が優雅な口ぶりで言ったかと思うと、少女が平然ととんでもないことをのたまう。警察庁職員たちがあっけにとられたのも無理はない。

(こいつらが本当に警察関係者なら、そもそもおれやマークが顔を知ってるはずだ。そうでなくとも特別に捜査に関わる奴がいるなら鑑識課の管理職クラスとしてミネヴァにも話が行ってるのが筋ってもんだ。捜査権があるってのはフカシか? だとしたら、この落ち着きようはなんだ? こいつらは一体何者だ?)

 混乱するニコラの疑問を解き明かすように声を上げたのは、さっきから壁際であんぐりと口を開けていた赤毛の後輩だった。マーク・アンガスは手櫛で髪を整えると姿勢を正し、手を差し出す。

「ウラディミル・コレンシウ伯爵閣下、本件に関して特別捜査権をお持ちとおっしゃるのなら、証拠を。証拠をお見せいただきたい」

 ウラディミル・コレンシウ。確信めいた口ぶりで名を呼ばれた美貌の貴族はにこりと微笑んで、懐から一枚の紙きれを取り出した。

「失礼しました。この通り、本件に限り、私はローゼンブラウ大公殿下および大統領閣下、警察庁長官閣下から特別に捜査権をいただいています」

 どこまでも落ち着き払った物言いで飛び出した国家元首と警察庁長官の名にぎょっとした刑事と鑑識は、差し出された書類に目を通して頭を抱える。書面の下部に並んだ署名はローゼンブラウ公国民として、公務員として、警察職員として、彼らが嫌というほど見てきたそれである。「特別捜査許可書」と銘打たれた書類の末尾と、その持ち主に交互に視線をやるニコラたちに反して、コレンシウ伯とその付き人たちはどこまでもマイペースだった。

「ひとまず、ご遺体の確認は充分です。遺留品等についてお話を聞かせてください。アビー、テオ、君たち二人は屋敷に帰りなさい。せっかくの休暇に私の仕事にこれ以上付き合うことは無いのだから」

「あら嫌だ、主人を一人にするなんて供回りのすることではありませんわ」

「それに僕ら、ダニーさんに閣下の傍を離れないようにって言われてるんです」

 ミネヴァが遺体袋のファスナーを締めたのを合図に、マークはひとまず貴族とその付き人を解剖準備室の外に連れ出す。その後姿を見つめて、ニコラはため息をついた。

(悪い予感が当たっちまった。一体、何が何だか……)

 

***

 

「長官閣下どころか大公殿下から許可が出てるとはな……。ウラディミル・コレンシウって言ったか、あいつら、本物の貴族なんだな?」

 仕事用のスマートフォンの通話終了ボタンを押して、ニコラはマーク・アンガスを見上げる。赤毛の合間から覗く若草色の瞳は戸惑いを映しているが、返事はしっかりとした首肯だった。

 解剖準備室から出た刑事のスマートフォンに電話をかけたのは、刑事部の部長だった。ニコラとマークにとって直接の上司である捜査1課長のさらに上司にあたるのが刑事部長である。刑事部長の連絡内容は、コレンシウ伯に特別捜査権が与えられていることの念押しだった。

「……ま、そういうことなら仕方ないか」

 ニコラは特別捜査許可証の写しを畳んでポケットに突っ込む。

 異例の事態ではあるしなんとなくやり辛いが、ニコラも警察という組織に身を捧げている立場である。よほどの理不尽でなければ上司の命令にも従うし、市民の安全を守るために働くという大前提を破壊されたわけでもない。

「にしても、マーク、お前はよくアイツの名前が分かったな?」

「コレンシウ伯のあの顔は目立ちますから。社交界じゃ有名人だし」

「そうなのか?」

「あの人は投資家です、それもかなり成功してる部類の。そのくせ本人にその自覚は無くて、もっぱら美術コレクターって名乗ってますけど。傍にいるあの少女と青年は伯の養子だそうですよ。あとはワイナリーのオーナーとしても名が知られています」

 アンガス家の末息子の言葉で、ニコラの脳裏に列車の窓から見た一面のブドウ畑が蘇る。思えばコレンシウ伯爵が執事とロボを連れて列車に乗ったのは、コレンシウ駅だった。あの一面のブドウ畑をはじめとするあたり一帯の土地がコレンシウ伯爵の土地、というのが真相なのだろう。

「詳しいな?」

「一応これでボクも貴族ですから。ま、ボク自身はコレンシウ伯とは接点が全く無いのでこの程度の情報しか出せませんけど」

 背の高い赤毛の後輩が肩をすくめた。日々共に現場と庁舎を駆けずり回り、時には街の華やぐ金曜夜にも共に資料室に籠って冷え切ったデリバリーのピザをかじり、時に仮眠室にたどり着く前に共にデスクで寝落ちる生活をしているせいでニコラはいつも忘れそうになるが、マーク・アンガスもまた貴族の一員である。そうだった……と妙に感慨深くなっていると、「あの」と控えめに彼らに声をかける者がいる。

「プロジェクターの準備ができたみたいです」

 廊下にひょこりと顔を出しているのはコレンシウ伯の両隣にいた二人のうち、青年テオの方である。刑事たちは「今行く」と返事して準備された部屋に向かった。

 扉とカーテンを閉め切った暗い部屋、白い光を放つプロジェクターに雑多に物が映し出される。

「コレが被害者の持ち主です。これはサイフに入っていた運転免許証。他にはドラッグストアのクーポン券と雑多なレシート、それから金銭がいくらかと、クレジットカード。こちらは被害者が来ていた服です。指紋は本人のものと犯人のものとおもわれるものが検出されました」

 鑑識課職員の言葉に、プロジェクターに見入っていた刑事ニコラが顔をしかめた。

「スマホの類は?」

「見つかっていません。周囲まで捜索範囲を広げましたが見つからず」

 コレンシウ伯と、その右に座る伯爵の傍仕えテオ青年が首をひねる。

「金銭はそのまま。つまり、加害者の目的は物取りではなくこの被害者を殺すことだったことになる。個人的な怨恨か? 吸血鬼は怪力だし空も飛べる、成人男性を地上10メートルの木の枝に引っ掛けることも不可能ではないが……」

「遺体と違って、運転免許の写真の耳は丸いですね。被害者はこの免許証を作った後に吸血鬼になったのでしょうか?」

 この事件の犯人と被害者が共に吸血鬼である、という前提で話を進めようとする二人をぎょっとして止めたのは刑事たちだ。鑑識課の職員も明らかに戸惑っている。

「おいおい、吸血鬼だと? 血を主食とし、日光と銀とニンニクに弱く、不老不死で、棺で眠り、身体を霧やコウモリに変えて、血を啜って人間を眷属にする、あの吸血鬼か?」

 ニコラが大げさに問うとウラディミル・コレンシウ伯爵はただ優雅にほほ笑んで肩をすくめる。

「確かにこのローゼンブラウには古い時代から吸血鬼伝説がごまんとある。共産主義時代にも吸血鬼がらみの話があるが、与太だろう。今は21世紀だぜ?」

「確かに尖った耳と鋭い牙は吸血鬼の特徴ですが、我々警察と刑法がその相手として想定しているのはあくまでも人間なんですよ」

 マークが頭を抱えた隣で、「それはそうと」と涼やかな声を上げたのはコレンシウ伯の供回りを自称する少女アビーだった。

「被害者の着ていた上着、ローゼンブラウのブランドだけれど多分偽物ですわ。刺繍されているロゴが少しおかしいの。染色も本来の物と少し違うし」

 観察眼に優れる刑事たちだが、奢侈品の真贋の見分けは専門ではない。自信に満ち溢れた貴族の少女の指摘を受けて鑑識課の職員に視線を向ける。戸惑ったように首肯が返ってきて、冷静さを取り戻した刑事たちは互いの顔を見合わせる。

「運転免許の発行国がローゼンブラウじゃない。大型車両免許……しかもかなり珍しい部類のやつだ。外国からの出稼ぎ労働者の類だろうな、それもおそらく輸送系の仕事の。マーク、被害者がどこで働いてたのか分かるか?」

「それがまだ不明で。ただ、見当は付きます」

 後輩刑事がどこからか取り出したローゼンブラウ公国全国地図を広げ、スマートフォンの電灯で首都アーテルベンを中心に照らし出す。マーク・アンガスは平素のどこか無気力そうな見た目とは反対に、記憶力と知識に富む優秀な刑事である。その優秀な刑事のローゼンブラウ中央区を示す指が、首都西方郊外に広がるテリオンの森に移動し、さらにそこから西に向かって滑る。

「被害者が見つかったテリオンの森から幹線道路ですぐのところにあるこの町。アーテルベンのベッドタウンですが、元々このベッドタウンは出稼ぎや外国も含めた外からの移住者の多い町です。確か出稼ぎ労働者を多く雇っている運送会社もありますし、被害者が着ているようなコピー商品を扱う店も多いと聞きます。現地に行けば、被害者の情報が得られる可能性は高いかと」

 さっそく現地に行こうと刑事たちが立ち上がった時、ガラリと部屋の扉が開いて、鑑識課のミネヴァ女史が顔を出した。眉間にしわを刻んでいるが、一通りの解剖が終わったらしかった。

「いくつか分ったことがあるから伝えるわ。まず一つ、被害者の死因は失血死。体中の血液が抜かれていたわ。次に、首筋の大きな穴の周辺に唾液が付着していたからそれを犯人のものと判断して採取、分析に回したところ」

「首に、他人の唾液?」

「舌や首は伸びませんから。ほら、自分の首は舐められないでしょう?」

 怪訝な顔をした刑事たちをなだめるように、コレンシウ伯がにこやかに笑って自身の首筋を指さす。その悪魔的な美貌の男の両隣に侍る二人も声をそろえて同意し、無邪気にくすくす笑っている。

「唾液についての結果が出るのはしばらく後ね。最後に、被害者の毛髪を調べたら薬物反応があった。これも今から詳しく調べるつもり。また何か分かったら連絡するわ」

 それじゃあ、と忙しそうに部屋を後にしたミネヴァを見送って、既に次の行動を定めた刑事たちは特別捜査権を持つ貴族一行を見やる。

「おれたちは麻取に寄ってから件の運送会社に行く。アンタたちも協力してくれるんだな?」

 ウラディミル・コレンシウ伯爵が長い金髪を揺らして首をひねった。

「私は捜査権を持っているだけで、別に君たちの捜査に協力する義務は無いのだが」

「……じゃ、どうしてあなたが本件の捜査権を持ってるんスか?」

 マークの問いに伯爵の供回りの少女と青年が互いに寄り添い、妖しく微笑してどこか勝ち誇ったような声色で答えた。

「本件の捜査に最も適任なのが伯爵だからですわ」

「あなた自身がさっきおっしゃっていたじゃありませんか」

 さっき、と言われてもそれが「いつ」の「何」なのか分らず、彼はくちびるをとがらせてニコラに助けを求めた。だがニコラはニコラで、謎かけのような物言いに呆れて直接答えを聞き出すことは諦めたらしい。代わりに別の問題点を指摘する。

「こちらも状況は把握した。だが特別捜査権はコレンシウ伯本人のものであって、そっちの養子二人には及ばないはずだ。違うか」

 指をさされて、伯爵の両隣に立つアビーとテオは首をかしげた。それが疑問の仕草でありながら拒否の意を大いに含んでいることを感じ取って、ニコラは彼らを睨む。だがそんじょそこらの小悪党が震えあがるその眼光の鋭さも、どこか超然とした貴族令嬢と貴族令息にはあまり効果が無いようだった。

「我々は伯爵の供回り、主の目となり耳となる者。あなた方は伯に耳と目をそぎ落として捜査をしろとおっしゃるの?」

「我々は閣下の供回り、主の剣となり盾となる者。あなた方は捜査に銃を携えるのに、閣下には丸腰で臨めとおっしゃるか?」

 それどころか堂々とした口ぶりで反論し、妙な気迫を伴った目がニコラを見つめ返す。ニコラは特別捜査許可証の写しをポケットから引っ張り出し、下の方に小さい字で書かれた但し書きを読むと額を抑えてため息をついた。コレンシウ家の家人に限り2名まで伯爵本人の随伴することを許可する、と明記されている。

(コイツら、伯爵の養子ってことらしいが本人たちは部下を自認してやがる。それも見事な忠犬ぶりだ)

 もう一度ため息をついたニコラは仕事用の携帯端末を取り出し、ズイとコレンシウ伯の方に差し出した。

「とりあえず連絡先を交換してくれ。そっちの独自捜査に俺たちの情報が必要になったらいつでも連絡してきて良いぞ?」

 にぃっと意地悪く刑事が笑う。だが美貌の貴族はそれをどう受け取ったのか、どこまでも好意的に笑ってもちろん、と連絡用アプリを起動させる。軽快な電子音で連絡先の交換を終えると、貴族はいやに優雅な仕草でポケットにしまい込んだ。

「さて、では私たちはこれで失礼するよ。ニューイヤーシーズン以来の一家団欒だからね」

「……事件の捜査するんじゃないのかよ」

「それもきちんとこなすさ」

 ウィンクをひとつして、金の巻き毛の男はその両隣に養い子たちを連れて庁舎を後にする。真昼の光の降りそそぐ春の往来に出た高貴な3人連れが黒い日傘片手に遠くなっていくのを眺めて、ニコラは苦く笑う。

「マジで変な奴らだったな。……あいつら、当然のように今回の犯人と被害者が吸血鬼だなんて言ってたが、まさかあいつら自身も吸血鬼だったりして」

「ニック先輩ってば、まさか!」

 ははははは、と軽快な笑い声が鑑識課の廊下に響いた。


***


「マークと言ったか、あの刑事の言う通り、現行の警察と刑法が相手にできるのは人間だけだ。吸血鬼の起こした事件を裁くのは人間には荷が重かろう」

 ハンドルを切りながら、ウラディミル・コレンシウは笑いを含ませた声で言う。彼の繰るクラシックな赤い高級車はアーテルベンの中央区から高級住宅街2番区に向かう道を走っている。その車内、後部座席に座った少女アビーと青年テオが小首をかしげる。

「それにしても奇妙なことになりましたわ、伯」

「本件の犯人を早いところ捕まえて事態の拡大を防ぎたいものですね、閣下」

 ウラディミルは頷いてアクセルを踏み込んでため息をつく。

「まったく、困ったものだな。どこの誰か知らんが、随分と派手にやらかしてくれたものだ。おかげで警察に嗅ぎ回られる羽目になった。……余計な手間を増やしてくれる」

「たった二人とは言え、あの刑事たち、さすがに本庁勤めだけあって優秀そうでしたわ」

「……彼らが事の真相に気づくのも時間の問題かもしれませんね」

 伯爵の供回りたちは声を強張らせ、その瞳をギラギラと光らせている。その様子をバックミラー越しにじっと観察して、ウラディミルは低い声を上げた。

「ならば、警察よりも先にこちらで本件の犯人を見つけて処分し、事の決着をつけるしかあるまい」

 面白がるように吊り上がった形の良いくちびるの合間から鋭い牙が覗く。窓から吹き込む風が黄金色の長髪を持ち上げて、その下に隠れていた尖った耳があらわになる。

 アビーが隣に座るテオにちらりと視線をやって首をかしげる。

「……刑事たちの情報を利用するとして、いち早く犯人を見つけるにはこちらも独自に情報が必要ですわ」

「それならいっそ、パーティーを開くのが良いかもしれませんね。今日が月曜日だから、金曜夜か土曜夜が良いのでは」

「いつもの情報通の方々は当然お招きするとして……今回、特別捜査権を貰うのに関係各所をずいぶん焦らせてしまいましたから、警察長官をはじめとする幹部の方を何人かと、ローゼンブラウ大公殿下、大統領閣下とその周囲の方々にも招待を出してはいかが?」

「政府やそれに準じる機関に警戒されたくはありませんからね。招かれた方々が実際に来るかどうかは別にして、閣下が直接手紙を出して誘うことでこちらに対立の意思が無いこと、当該機関の権利を悪用するつもりが無いことを表明できればベストです」

 養い子たちがポンポンと話を進めるので、赤信号に合わせてブレーキを強く踏んだウラディミル・コレンシウ伯爵が苦く笑って後部座席を振り返る。バックミラーに移っているのは、二人の養子だけである。

「二人ともいつも以上にやる気だな?」

「当然ですわ、伯、ウラディミル・コレンシウ伯。貴方のお役に立つことこそ我が望み」

「それに、閣下、伯爵閣下、今回の一件は我ら吸血鬼の平穏を乱す一大事でもありますから」

 視線が合うと、二人の養い子たちは蕩けるような満足げな微笑を浮かべてみせた。その美しい口元に覗く尖った犬歯がどきりとするほどにきらめく。ウラディミル・コレンシウは正面に向き直って再びアクセルを踏んだ。赤い車は華やかながらも整然とした高級住宅地に入り、その奥まった一角に停まる。

 道の両脇に植わったプラタナスの葉の合間から落ちる木漏れ日に目を細めながら車を降りた3人は1件の邸宅の呼び鈴を押す。扉が開き、彼らを出迎えたのは件のシルバーグレーの髪の執事ダンと、その傍に控えるロボットのポポだった。

「おかえりなさいませ。車の運転でしたら私を呼んでくださればよかったのに」

「あれは俺の趣味だから気にしないでくれ、ダニー。それで、急で悪いのだが今週の金曜か土曜の夜に」

「パーティーの件でございますね。既にアビーとテオから連絡を貰っております。開催は金曜日にいたしましょう」

「旦那様、創造主さまと共に、仮案ですが招待客の一覧を作りました」

 AI搭載ロボがどこか幼気な声色で言ったかと思うと、器用な機械仕掛けの手に持っていた手書きの名簿を伯爵家当主に差し出す。伯爵の養い子たちは旅行鞄片手にその横を通り抜けて、広々とした螺旋階段を登りながら階下の二人に声をかけた。

「自室に荷物を置いてきますわ。良い時間だし、昼食は外で食べませんこと?」

「パーティーの招待客もそこで詳しく決めましょう」

 はしゃいで駆けていく背を見つめて養い親であるウラディミルは目を細め、いやに静かな声で言う。

「出会った時はあんなに頼りない小さな子たちだったのにああも見事に仕上がるとはな、思わぬ拾い物だった。……ここまで成長したのなら、もう手元に置いておく必要もないかもしれん」 

「と、申しますと?」

「あの子たちを本来の計画通り、次に段階に進める、という話だ」

 険しい顔をしたウラディミルに、老齢の執事は「それは……」とためらいがちに彼を咎めようとする。けれど当の養い子たちが階段を駆け下りてきて、執事は口をつぐんだ。

「伯、荷物を置いてきましたわ! お昼を食べに参りましょう」

「確か今日は交差点のカフェ・イブリックのランチの日です!」

 日傘片手にきゃあきゃあとはしゃぐ養い子たちに無邪気に笑みを向けられて、養い親ウラディミル・コレンシウはにこりと微笑んだ。

「……それはそうと二人とも体調はどうだ? 変わりないか?」

「はい、元気いっぱいですわ! あ、伯、ちゃんと日傘にお入りになって。いくら日焼け止めを塗っているからと言っても気を付けなくちゃ」

「吸血鬼として半人前の僕らはともかく、閣下は一人前で純血なんですから。……閣下こそお身体の調子はいかがですか? 問題ありませんか?」

「ふたりともそんなに泣きそうな顔をするな。ほら、笑っていろ」

 テオが心底心配そうに養い親を見上げ、ウラディミルが養い子たちの頭を撫でるその様を、執事のダンは数歩後ろからじっと見守っている。その表情はどこか寂しそうで、それでいて痛ましいものを見るような哀れみが交ざっている。それに気付いたのはその隣にいたポポだけである。機械のアイスコープは創造主の表情を把握すると優秀な学習型AIでそれの意味するところを理解して、彼の手に己の機械の指をからませた。

「わたしはいつでも創造主さまの味方です」

 幼気な声がそう言ったので、ダンは静かにほほ笑んで主人たちの背をゆっくりと追った。


***


「この顔は覚えてるよ、アンドレイっていうんだ。ああ、やっぱり出稼ぎの人だったんだね。そこの角曲がったところに青い看板の運送会社があって、彼、そこに勤めててさ。出勤してるのたまに見てたから。あの会社は出稼ぎ労働者を沢山雇ってて。あ、会社のほうでも話聞いたの。……んー、会社がアンドレイと突然連絡がつかなくなったのをあんまり気にしてなかったのも仕方ないかなって思うよ」

 ローゼンブラウ公国首都アーテルベン西方に広がるテリオンの森からさらに西に行ったアーテルベンのベッドタウン、テリオンの町。その一角にある小さな古着屋の老店主は聞きこみに来た刑事たちにカラリとした声で語る。

「この街は出稼ぎの人が多いからね、みんな仕事が欲しくて来てるから誰かがいなくなってもすぐにその分は補充できるし。そういう出稼ぎの人が突然何か理由があって……例えば故郷の家族が危篤とか、もっと良い条件の仕事が別の町に見つかったとかでこの町から突然いなくなることも割とあるから。いやまあ無断で仕事突然抜けるのはやめてほしいけど、そういうことも一定数あるってこと。そもそもここは人の出入りが多い町だから誰かがいなくなっても気づくのが遅くなりがちなんだよね」

 乾いた諦観をにじませた古着屋の店主はそこで口をつぐんで店のシャッターを下ろし始める。これ以上話を聞き出せそうにないと判断した首都から来た刑事たちはひとまずその場を後にした。

 刑事マークの提言は的確だった。実際、彼が立てた「変死体事件の被害者アンドレイはテリオンの町で働いているはずだ」という予測は見事に的中した。

 テリオンの町には夕暮れが押し迫り、往来には家路を急ぐ人たちが行きかう。それを横目に眺めて刑事ニコラは腕を組んで首をひねる。午後の時間いっぱいを使ってテリオン警察署とアンドレイの務めていた輸送会社に話を聞いたものの、芳しい情報が得られていないのが現状であった。

「ひとまず、早めの夕飯にするか。人の多そうなパブに行って話を聞いて」

 ニコラがそう言ったところに「あの」と控えめに声がかかった。いかにも退勤中、といった様子の小柄な女性が立っていた。しかし何よりもその顔に見覚えがあって、刑事たちは軽く目を見張った。

「あなたは確か、先ほど話をうかがった運送会社の」

「あの場では忘れてたんですけど、思い出したことがあって。あ、でも全然関係ないかもしれないんですけど」

 困ったようにパタパタと手を振る彼女に、ニコラは「大丈夫ですよ」と笑いかける。どちらかと言えばいつもいかめしく、内面の生真面目さがそのまま外面に出たようなニコラであるが、市井の人々と喋るときにはその限りではない。時には子供や気難しいと評判の人物から重要な情報を引き抜くことすらあり、そのあたりがこの刑事の優秀さでもある。

(たま~にそれで他人をその気にさせちゃうこともあるけど、ま、そこは先輩の落ち度じゃないしなぁ)

 そんなことを思いつつ、マークは「何か飲みますか」と情報提供に来てくれた女性を近くのドリンクスタンドまで連れて行く。ついでに、3人分の飲み物代を出したニコラのコートのポケットにこっそり自分と女性のドリンク代を入れておく。

 店員から差し出されたホットレモネードをすすりながら女性は首をひねる。どこから話すべきなのか戸惑っているらしく、その間刑事たちは黙っている。

「アンドレイ、治験のバイトに応募しようかって迷ってたんですよね。あ、でも実際に参加したのかはわかりません。アンドレイはその後くらいから、夜通しトラックを運転するような長距離ドライバーの仕事をやるようになって、話す機会も減っちゃったので」

「治験のバイト?」

「はい、アーテルベンの薬品会社か何かのバイトだとかで。……かなり真剣にスマホ見てたし、あの口ぶりだと結構本気で応募しようとしてたんじゃないかなぁ」

「アンドレイと連絡先の交換とかは?」

 マークの問いに彼女は首を横に振った。連絡先を交換したり、一緒に食事をするほど親しくはなかったという。そもそも彼女には故郷から一緒にこのローゼンブラウまで出てきた伴侶がいるというからそれも無理ないことだ。

「ほら、この国は同性婚ができるでしょ? だから」

「ああ……すみません、失礼なことを聞いてしまって。アンドレイの個人的な友人関係などについてなにか思い当たることはありませんか?」

 ニコラの言葉に女性はもう一度首をひねって、それからゆっくりと答える。

「彼、めちゃくちゃに体力があるってタイプじゃなかったわ。今まで未経験なのに40代で急に長距離ドライバーをやり始めたのは意外に思った、かな」

 その言葉に、刑事たちは互いの顔を見合わせる。アンドレイが突然長距離ドライバーをやりたい、と申し出た、というのは運送会社からも聞いた話だった。通常のドライバーよりもそちらのほうが賃金が良いのは確かだ。

 女性はカップに入ったレモネードを飲み干して、道の先を指さした。

「友人関係……はよく分からないけど、この道をまっすぐ行ったところにメゾン・ド・レザンって大きいパブがあるの。アンドレイはそこによく行ってたわ。この町は出稼ぎの人相手に、彼らの故郷の料理とか故国のメーカーのお酒を飲ませるお店が多いの。だけどこのパブはローゼンブラウの料理とお酒を出すお店なのよね。国境を越えてこの国に来た彼が故郷の味を求めず、レザンに行くのをなんとなく意外に思ったのを覚えてるわ」 

 彼女の話はそこまでだった。奢ってくれてありがとう、と空になったカップを捨てた彼女は退勤の途中だった伴侶と合流し、手をつないで家へと帰っていく。それを見届けて刑事たちはどちらともなく示されたパブに向かって歩き出す。

「アンドレイが常連だった店、か」

「治験、治験バイトかぁ。それも何か話が聞ければいいんですけど。あとはアンドレイの死体から出た薬物反応か」

 パブ、メゾン・ド・レザンは広く、月曜夜であるにもかかわらず賑やかだった。店名の通り、葡萄の木をモチーフとしたアールヌーヴォー調の木造の内装が美しく、葡萄の房を模した照明がそこかしこの天井から垂れ下がって店内を明るく照らしている。周囲をぐるりと見渡した刑事たちは開いている席に座り、店員からメニュー表を受け取りつつとりあえずワインを頼む。メゾン・ド・レザン、とプリントされた緑のエプロンをした店員が厨房に引っ込むのを見届けて、二人は声を潜める。

「……極めて健全な店、だな。店員も普通だし、店内も見通しが効くし、大麻の匂いもしない」

「さっきちらっと見えたんですけど、トイレの電灯の色が青でした。……麻取がこの店を警戒の対象にいれていないのも納得です」

 庁舎を出る前に寄った麻薬取締部から貰った紙切れを畳んでポケットに仕舞い、とりあえずで頼んだワインをマークが受け取る。

 ローゼンブラウはワインの国、もとい葡萄の国である。店に入ればとりあえずワイン、乾杯はもちろんワイン類、祝い事の場でもワイン、亡き人を悼むのも基本はワイン、飲めない人にはぶどうジュース。パン屋で人気のあるパンといえばレーズン入りのパン、ローゼンブラウの定番菓子といえばレーズンを使った菓子。教会の聖体拝領で出されるワインのレビューサイトが人気、などとにかくワインと葡萄が生活に馴染んでいる国である。

 グラスになみなみ注がれた赤ワインを見つめてふとマークが首をひねる。

「そういや、今回の件を受けてテリオン署がアンドレイのアパートの部屋を捜索したものの、スマホは見つからなかったとか」

 ワインを煽ったニコラが声を低めて囁く。

「そうなると、アンドレイのスマホは盗まれたことになる」

「SIMカードも本体も売ればお金になりますからねぇ。けどそれなら財布が手つかずだったことと矛盾する。つまり、転売目的で盗まれた可能性は低いスね。てことは……アンドレイのスマホから何がしかの情報が警察に漏れるのを避けるために、犯人が殺害と同時にスマホを回収した?」

「ま、普通にどっかにスマホ落したって可能性もありうるがな。だが少なくとも、犯人はアンドレイと連絡を取っていたことになる。友人・知人関係を中心に洗っていくのが近道か」

 ニコラは肩をすくめて話を切って1杯目のグラスを空にして、運ばれてきた料理を受け取り、ついでに2杯目のワインを注文する。流れるようなその一連の動作に後輩は「そういやこの人は自制の利く酒飲みだったな」などと思い出す。自分の酒をちびちびと飲んでいたマークは、ふと傍の4人席から聞こえる会話に耳をそばだてる。

「いやー、にしてもアンドレイが死んでたとは。最近あんま顔見ないなとは思ってたけど」

「ニュース見た時はびっくりしたわ。うーん、変な仕事に引っかかったんかねぇ。稼ぎのいい仕事探してたみたいだったけど」

「仕事と言えばあいつ、首都で治験のバイトやってるとか言ってなかったか? 栄養ドリンクか何かの。そのせいか分かんねぇけど、最後の方に会った時はなんかめちゃ元気有り余ってる感じで、夜間ドライバーやってたし」

「……ていうか、治験バイトって最近流行ってる感じ? サンダスとかホーキーポーキーに行ったら、たまたま近くの席だった子たちがやろうかなって相談してて。店もだし、本人たちの感じからしても外国から来た出稼ぎの子たちだと思うんだけど」

「あー、確かに最近たまに聞くかも。バイト代が破格に良いとかって。……いや、聞いたって言うかネットのオカルト掲示板で見たんだわ」

 そこでマークが勢いよくグラスの中身を飲み干し、盛り上がる4人組の会話に割って入った。

「治験のバイトってそんなに稼げるんですかぁ? ていうかオカルト掲示板でなんで治験の話が?」

 運ばれてきたばかりの酒をそのまま彼らの方に回すのも忘れない。酔客のうち、浅黒い肌の男が回ってきた酒を手にスマートフォンで検索ブラウザを立ち上げる。

「んー、これはちゃんとした会社に対してすごい失礼な話で、ネットの噂話だから絶対真に受けないでほしいんだけど」

 マークの前にズイ、とスマートフォンの画面が差し出される。治験バイトの噂、と銘打たれたスレッドだが、そこまで盛り上がってはいないらしい。

「治験バイトってだいたい泊まり込みじゃん? で、それに参加した友人がそのまま帰ってこなかったって。でも他の人はちゃんと帰って来てるらしいし、バイトに参加したことは関係ないかなって感じ」

「どこの会社とかって、スレッドには書いてないんですか?」

 マークが尋ねると、スマホの持ち主が画面をスワイプさせるが彼は首を横に振った。

「この感じだと多分アーテルベンの企業だと思うけど、具体的な企業名は書いてないなー」

「変な噂も出回ってるし、何だか落ち着かないわね」

「……噂?」

 料理の乗った大皿を片手に本格的に話に加わったのはここまでだんまりを貫いていたニコラだった。彼の座っていた場所にはすでにグラスが5脚も並んでいる。噂話に興じていた人々は追加でピザと酒を頼み、うん、と戸惑ったように首を縦に振る。

「というかアンタたちこの町の外の人?」

「ああ、実は俺たちはこういう者でな」

 刑事であることを明記した名刺を差し出したニコラに客たちは一瞬緊張に顔を張り詰めたが、刑事マークがへらっと笑って「最後の一枚もらって良いですか~?」と聞きながら返事を待たずピザを口元に持って行ったので、その場の4人がふっと笑う。

「で、噂って……?」

 ニコラが首をかしげると、ふくよかで朗らかそうな女性が痛ましそうに顔を伏せる。

「行方不明になる人が増えてる、とか、見慣れない人をこの町にいる、とか」

「見慣れない人?」

 このテリオンの町は元から人の出入りが多く、知らない人を見かけることが多い。町の住人自身がそう認識している。だがそれと矛盾した女性の語りに、刑事たちは気になった部分をオウム返しにする。

「んー、なんかね、この町っぽくない奴っての? 身なりが良くて、オレたち庶民とは違うって言うか、貴族っぽい奴を見かけるって」

 浅黒い肌の男がため息をついた。刑事たちが催促せずとも酒を片手にぼつぼつと語り始める。その横で大柄で武骨な男がわずかに眉間にしわを刻み、気まずそうな顔で目をそらす。

「どうかしましたか?」

「いや、何か言ないといけないことがあるような気がしたんだが思い出せなくて……」

 刑事ニコラが問うと、リッキーという男はなんとか思い出そうとして首を横をひねった。

 そのとき、不意にカランとドアベルを鳴らしてスーツ姿の客が店に入ってきた。腕に紙束を抱えた痩せた男だ。年齢はまだ30代後半だろうか。優しげな顔立ちだが、どことなく疲れているようにも見える。男がふらつく足取りで店のカウンターに歩み寄ると、緑のエプロンをしたスタッフが焦って彼を抱きとめる。

「大丈夫ですか、コボゥさん?」

「す、すみません……。あの、新しくポスター作ったので貼らせてもらえますか? あと何枚か置かせてもらえると」

 憔悴した男はメガネのずれを直して、抱えていた紙束の一部を店員に差し出した。紙面を見た店員は眉間にしわを刻んで丁寧な手つきでそれを受け取る。ニコラたちと談笑していた4人組のうち浅黒い肌の男が立ち上がってその場に声をかけて、憔悴したスーツ男を自分たちの席に連れてくる。

「コボゥさん、オレたちにもポスター何枚かちょうだい、職場に貼っとくから。それからこの人たち、警視庁の刑事さんらしいよ。ポスター渡しといたら?」

 自然な流れで誘導されるポスター片手の男・コボゥ氏のために刑事二人は近くの席から椅子を持ってきて、彼をそこに座らせる。どうやらこの4人とコボゥ氏は知り合いらしかった。

「3か月前に娘が行方不明になって、この店で自暴自棄になって飲んでるところを彼らが止めてくれたんです」

 まだ3歳か4歳の少女の写真と「ハンナ・コボゥ」の名が印刷されたポスターを刑事たちに差し出しながら、父親ははにかむ。それを丁重に受け取って刑事たちは紙面を見つめる。

「いなくなったのはアーテルベンなんですね」

 ニコラの言葉に、コボゥ氏は運ばれてきたスープを冷ましながら涙ぐむ。

「普段は娘と二人でこのテリオンの町に住んでるんです。休日に娘を連れてアーテルベンの新市街に出かけて……公園でアイスクリームを買っている間、少し目を離したんです。ほんの1分か2分」

 父親の声は次第に濡れて、スプーンを握った手に力がこもる。

「アイスを買って振り返ったら、既に娘はいませんでした。私が目を離したばっかりに、大事な大事な、妻の忘れ形見なのに。新市街の警察署にも届け出を出して全国手配で探してもらっていますが……」

「失礼ですが、奥様は……?」

 一児の父は差し出された紙ナプキンで目元をぬぐい、呼吸を整えてマークの問いに勤めて静かな声で答える。

「2年ほど前に交通事故で死にました。妻が死んだ町に住むのを辛く思っていたところに偶然アーテルベンの新市街にある小さな製薬会社の求人を見つけて、アーテルベンに近いこの町に引っ越しました。片親家庭への手当てや保育園との提携、遠方から引っ越してくる場合の引っ越し補助が充実しているのもあって今の会社に転職したんです」

 それでもやっぱり父親の目には涙が溜まる。この場の誰もそれを咎めず、黙って話をさせてやる。

「……ポスター、会社にも貼らしてもらってて、申し訳なくて。たまに土曜日に出勤しないといけないときに、事務の方たちが娘の面倒を見てくれていたんです。みなさん気を遣わせてるのが分かるし、警察の人たちも頑張ってくれているのが分かるから、私もしっかりしないといけないのに、分ってるのに」

 やっぱり無理で、と言う声が掠れて滲む。

 ニコラは何か言おうとして結局口をつぐむにとどまり、言葉の代わりに運ばれてきた暖かい料理をコボゥ氏の目の前に置く。刑事として、大切なものを失い傷ついた人々と多く対面して10年が経つが、それでもこんな時にどんな言葉をかけるべきなのかいまだに分らないでいる。そして同時に、本当に傷ついた人にとっては他者の言葉などノイズにしかならない瞬間があることを分かっている。そしてそれでも言わなければならないことがあるのも分っている。

「戻ってきたお嬢さんに元気な顔を見せられるように、まずはしっかりご飯を食べて、しっかり眠ってください。ベッドに入って横になるだけで良いので」

「……ありがとう」

 涙ぐんだ男がやせた頬にかすかに笑みを浮かべた。それから律儀に胸ポケットに入っていた名刺を取り出してニコラたちに差し出した。メディカル・メルカと書かれた青い製薬会社の名刺の下方には、アーテルベンの新市街の住所が書かれている。

 刑事たちはその彼と名刺を交換すると、机の上に適当に紙幣を置いて、何かあれば連絡を寄越すように言い残して店を出た。タイミングよくやってきたバスに乗り込み、刑事二人はひとまずアーテルベンに戻ることにした。行きと同じようにバスに乗った二人は静かな車内で声を潜める。

「……どう思う? 治験バイトと行方不明者の話、それから、」

「治験バイトの方はぶっちゃけ都市伝説っぽいですね。結局、死んだアンドレイの参加した治験バイトがどこの会社の開催かもわからなかったし。彼が行きつけにしてたメゾン・ド・レザンも普通の健全なお店だったし」

「ま、あの4人組が何か情報提供してくれるのを待つか」

 ふとニコラが思い出すのは今朝、捜査1課長に休暇明けの挨拶をした、その後のマークとの会話だ。ここ1年で増加傾向にある失踪・誘拐と思われる事件の対策に公安が動くのではないか、という話だった。

 刑事ニコラとマークを乗せたバスは町を出て、テリオンの森を抜け、アーテルベンの新市街に突入する。首都アーテルベンの新市街は夜を忘れたかのようににぎやかだ。

 ローゼンブラウ公国首都アーテルベンは庁舎の並ぶ中央区を境目に西と東に分けられる。西側が新市街、東側が旧市街である。新市街は大ビジネス街として名をはせ、大きな繁華街やショッピングモール、最新のライブハウスやクラブが並ぶ。一方で東側の旧市街は高級住宅地である2番区があり、それ以外にも高級ブランドのブティック、古い音楽ホールや公文書館、各種ミュージアム、大学などが並ぶ。

 新市街の適当なバス停で降りた二人は夜風に吹かれながら石畳を歩き、官舎に向かう。繁華街で一番目立つビルに取り付けられた巨大ビジョンの中で色白のモデルが口元の牙を見せつけるように妖艶にほほ笑み、手にしたボトルを高く掲げる。吸血鬼も愛用、と銘打たれたのは最新の日焼け止めらしい。その次にはストリートファッションに身を包んだ若者たちがバータイプの栄養食やエナジードリンク片手に夜の街に飛び出す映像が流れる。

「夜行性になっちゃう?」

 キャッチコピーに合わせて歯を見せて笑うモデルたちの口元の、尖った牙。

 ここローゼンブラウ公国は観光において吸血鬼を一つの売りにしているが、それは国内大手企業のコマーシャルにもよく使われるモチーフでもある。

 ニコラがふと思い出すのはあのウラディミル・コレンシウ伯爵とその養子テオとアビゲイルのことだった。彼ら3人はまるで吸血鬼が存在して当然かのように語ってみせた。そして彼ら曰く、今回の件で死んだアンドレイは吸血鬼で、それを殺した犯人もまた吸血鬼であるらしい。

「もしこの国にマジに吸血鬼がいたら、お前どうする?」

 つい口をついて出たニコラのおかしな問いに、しかし後輩は真剣に取り組んだ。

「そう……ですね。共生は無理だとしても退治して殺す、とかじゃなくて、隣の社会のヒトとして最大限誠実に向き合う、かな」

「……お前、ほんと良い奴だよなぁ。じゃあまた明日な」

 その返答に破顔して、ニコラはひらりと手を振って官舎の自分の部屋の扉を開けた。


***


「アンドレイの薬物反応なんだけど、今まで見たこと無い化学式だったわ。系統としては覚せい剤の類。興奮作用のある、いわゆるアッパー系ね」

 鑑識課のミネヴァ女史は検査結果を表示した仕事用の大型端末を捜査一課の刑事たちに差し出した。

「個人的には、被害者の首筋の傷痕に付近にわずかに付着していた唾液。ここからも似たような薬物反応が出たのが気になるんだけど」

「被害者も犯人も薬物を使用していたってことですか?」

 刑事マークが首をひねると、鑑識は曖昧に微笑む。事態はそう単純ではない。

「でも被害者アンドレイの部屋から薬物の類は出てこなかったんでしょ? それに、行きつけにしていたパブも薬物の売買や使用の現場になるような雰囲気ではなく、そうならないように店側も工夫をしていた。実際、アンドレイの身体に分かりやすい注射痕なんかは無かった」

 テリオン署がアンドレイのアパートの一室を調べたところ、パソコンや固定電話の類は元から無く、おまけに薬物の類も出てこなかったという。近隣住民はしばらく前から彼の部屋が静かなことに気づいていたが、別段深刻には考えていなかったらしい。何にせよ、昨日テリオンの町で知ったアンドレイの生活と、彼から薬物反応が出た、という二つの事実がどうにも食い違っている。それがニコラの所感である。

 それで、とミネヴァ女史が話を進める。けれど次には眉間の皺をいっそう深めて、口をまごつかせながら画面をスワイプして、次の資料を刑事たちに見せた。

「一応、被害者の衣服からわずかだけど指紋が検出されたわ。検出された位置は上着の第1から第3ボタン、つまり胸のあたり。犯人は被害者の胸ぐらをつかんでいたことになるわ」

 言いながら、ミネヴァは追加の資料を刑事たちに差し出した。

 指紋からは人種や体格、性別、年齢などを推測することができる。それらを一覧としてまとめた紙をのぞき込んだ刑事たちは顔をしかめた。

 犯人と思われる人物の人種は東欧系、体格はやや小柄、身長に換算すれば160センチから170センチほど。性別は男性。

「年齢……100歳以上?」

「何かのバグか?」

「バグであって欲しいわよ」

 胡散臭いものを見る目を向けられて、鑑識職員ミネヴァ女史が頭を抱える。どうやら思わぬ結果に彼女の部署全体が混乱しているらしかった。マークが憮然とした口ぶりで言った。

「アンドレイは40代の健康な男性、身長は180センチと少し。100歳以上の老人が、自分よりも体格の良い相手を殺して、挙句の果てに地上10メートルの木の上に引っ掛けた? 常識的に考えて不可能スね」

 まったくだ、と同意したニコラの頭にふと不埒な考えがよぎる。あのウラディミル・コレンシウ伯爵の派手な美貌と見事な長い金の巻き髪が蘇って、連鎖的に、その両隣にぴったりと寄り添う彼の養子、青年テオと少女アビーの妖しい微笑が思い出された。

 相手が常識的でないのなら、そう、例えば。

(吸血鬼、なら)

 けれどニコラがそれを口に出すことはなかった。

 それを見抜いたように、ミネヴァが画面を更にスワイプさせながら衝撃的な事実を告げた。

「指紋から予測される体格、さらにそこから導き出される口腔の大きさ、そこから導き出される口腔内の犬歯の位置。それらはちょうど、被害者アンドレイの首筋の二つの穴とその周囲に付着していた唾液の跡にぴったり重なった」

 ぶるりと刑事の背が震えた。武者震いであり、悪寒でもあった。なんとか絞り出した声はかすれていた。

「つまり、本当に吸血鬼が犯人だって言うのか……?!」

「少なくともうちのボスはそう言ってたわ」 

 ミネヴァ女史がこの世の終わりのような顔でため息をついた。鑑識課の課長はその道50年近い大ベテラン。経験豊富で、国境をまたいだ犯罪捜査においては他国から名指しで協力を仰がれるほどである。

 端末に表示された資料にも、他生物との口腔の形状の比較画像が表示されている。

「この指紋なんだけどね、警視庁のデータベースに一致するものがあった。15年前の吸血鬼カルト集団殺人事件で採取されたのと同じ指紋よ」

 ミネヴァが画面をスワイプして新しい資料を見せた。刑事たちの顔に緊張が走る。

 15年前に起きた、吸血鬼カルト集団殺人事件。このローゼンブラウのみならず周辺国をも驚愕させた猟奇事件である。吸血鬼の信徒を自称するカルト集団が老若男女10人を誘拐、彼らを殺害して吸血鬼への「生贄」として捧げた。実行犯は全員逮捕されたが、錯乱状態に陥っていた。

「その指紋は当時の事件現場で発見されたものの、誰のものかは分らずじまい。犯人が捕まって捜査は終了、今は生贄になっていた子供2人が行方不明ね」

「確か、現場の遺体の数が誘拐された人数と合わなかったかったって話スよね?」

「当時6歳だった2人の子供の遺体だけが見つからず、現在は行方不明扱いになっていたな」

 警察学校で習ったことである。刑事たちはミネヴァ女史に礼を言うと、資料を自分たちの端末に送ってもらい、別棟の鑑識課から自分たちのオフィスである捜査1課に戻る。その道中でマークが手元の仕事用端末から当時の事件概要をまとめたファイルの閲覧請求を出し、ニコラは自分たちの部屋に戻って上司に事の次第を伝えた。

 だが……。

「15年前のその事件の当時だって、100歳越えの指紋にみんな驚いたさ。だがそれが一体何だって言うんだ? 犯人は全員、刑務所で死刑を待つばかりだ。捜査本部を立てて捜査の人員を増やす理由にはならん」

 ニコラとマークたちの上司、捜査1課長の態度は渋かった。部下たちは露骨に批判的に睨まれて、上司はため息をつく。この男は15年前の吸血鬼カルト集団殺人事件の捜査に加わっていたらしい。当時はまだ役職も何も持たないヒラの刑事だったという。その男が当時を語り出す

「吸血鬼カルト集団殺人事件の犯人たちは、逮捕当時、血まみれの事件現場で恐慌状態に陥っていた。その状態で唯一はっきり聞こえたのはストリボーグという言葉だけだ」

 ストリボーグ。その言葉に、若い刑事たちは唖然とした。ストリボーグ、それはローゼンブラウの人間なら誰でも知っている吸血鬼の名前である。古い伝説や怪奇譚、おとぎ話に語られる暴力と流血の象徴のような存在で、夜の恐怖の擬人化とも言える。もっとも人口に膾炙したおとぎ話においてはストルボーグは自身の棺桶でしか休むことが出来ず、名のある僧侶によってその棺桶ごと封印された、と言われている。また、ローゼンブラウの大人たちが聞き分けの悪い子供を叱るときに引き合いに出す定番の存在ででもあり、誰でも幼いころに一度は「棺桶から出てきたストリボーグに連れ去られて食べられるよ!」と怒られた経験を持つ。つまるところストリボーグとは、ただの幻想の存在である。

 資料室に向かう廊下を歩きながら、ニコラ刑事はため息をついた。

「ここまでの状況を整理すると、今回テリオンの森で見つかった変死体アンドレイを殺した犯人は、15年前の吸血鬼カルト集団殺人事件の現場にも表れていた。そして、それはマジモンの吸血鬼だった、と予想される」

 背の高い後輩と互いの顔を見合わせて、双方がげんなりとした表情を浮かべた。2人そろって脱力して、パソコンの並んだ資料室に入ると、それぞれがその前にどさりと座り込む。

「おとぎ話のストリボーグかよ……。マーク、15年前の吸血鬼、課長の話以外にめぼしい話あるか?」 

「んー、特に無いですねぇ。そもそも彼らがストリボーグって言ったのがどういう意図か分かんないしなぁ」

 仕事用の大型端末で当時の捜査資料にざっと目を通しながら後輩は首をひねった。15年前の事件の犯人たちがなぜ「ストリボーグ」と口にしていたのかは不明である。けれどその口ぶりには強烈な恐怖が含まれていたことを、当時の捜査資料は明記している。端末を一度スリープさせて、マークは今日何度目になるか分からないため息をついた。

「冗談きついスよねぇ。コレンシウ伯にも言ったけど、ボクら警察は人間相手が前提。吸血鬼とか未確認生物は軍か科学研究所の担当だっつの」

 どうしろってんだ、とぶすくれたの隣で、ニコラは資料室備え付けのパソコンの電源を入れて、データベースから15年前の事件に付属する資料を引っ張り出す。

 だが、過去のことが分かっても今現在のことが分からない。吸血鬼と思しき犯人と、被害者アンドレイの関係は不明。犯人の目的も分からない。おまけにアンドレイの志望数日前の行動もこうなってしまうと、次の被害を食い止めることも困難である。

「にしても、ウチの吸血鬼話は筋金入りですね。共産主義時代の話と言い」

 鑑識課から貰った調査結果や、テリオンの町のパブで名刺を交換したアンドレイの飲み仲間たちの名刺を眺めながら、マークがちょっと笑いながら言う。長すぎる前髪の後輩の隣で、15年前の事件のフォルダを開いていたニコラが目を丸くした。

「1930年代とかに唯物主義の共産党が大真面目に吸血鬼の解剖とか血液検査とかやったってアレだろ? 与太じゃねぇのか?」 

「いや、あれはマジですよ。旧市街の公文書館にその調査結果をまとめた資料なんかが保管してあります。まあその検査の対象が本当に吸血鬼だったのかってのは謎スけど」

 何食わぬ顔で言われて先輩刑事は唖然とする。

 共産主義時代、特に1930年代のローゼンブラウといえば、その思想にのっとり、徹底した科学主義・唯物主義を採用した。神を否定して教会を糾弾し、霊魂・怪力乱神を否定して怪物・妖怪を排斥し、迷信を否定して占いを禁じた。結果、修道士をはじめとする宗教関係者、占いを生業の一つとするロマたち、そして魔女・妖怪・人外と噂される者たちを十把一絡げに迫害し、彼らの居場所や家財のことごとくに火を放った。のちの時代に「大粛清」と呼ばれる大破壊と大殺戮である。当然、その中には実際には魔女でも狼男でも何でもない罪の無い人々が多く含まれていた。

 そしてその過激さと言えば、共産主義の本場ソ連から非難されるほどだった。

「教会やロマへの非難はともかく、本当に存在するのか分からない妖怪の類をそこまで執拗に批判し迫害するってのは、逆に当時のローゼンブラウ共産党がそれの存在を心底信じていたからって解釈もできますからね」

「それが電気も火薬も電話も存在する現代、20世紀の話だってんだからどうかしてるぜ」

 ため息をついたニコラがパソコンに向き直った時、彼の仕事用端末が呼び出し音を鳴らした。通話ボタンを押して聞こえてきたのは、先日のテリオンの町のパブ、メゾン・ド・レザンで一緒に飲んだ4人組だった。

「思い出したらしいのよ、アンドレイが参加してた治験バイトの会社!」

「その……メディカル・メルカ、だ。アーテルベン新市街の製薬会社」

 戸惑いながら社名を告げたのは、あの大柄な男リッキーだった。低い声が特徴的だ。 

「あ、ども、マークです、あそこのピザ美味しかったですね。リッキーさんですよね、アンドレイのことでも関係無くても、他になんか思い出したコトとかないスか?」

 根が生真面目な先輩の手からスマホを奪って気軽な風に問うたのはマークだった。だがその声色に反して表情は険しい。

 話をするのは後輩に任せて、ニコラはPCにメディカル・メルカの公式ホームページを表示する。キーボードの横にはコボゥ氏から貰ったメディカル・メルカの名刺と、彼の娘の捜索ポスターを並べる。製薬会社メディカル・メルカはテリオンから少し離れた場所に工場と倉庫を一つずつ持つ、ごく小さな会社である。

「ん……いや、無い、かな。その……すまん」

「いーえ、またなにか思い出したらいつでも電話してください。情報提供、感謝します」

 ぎこちなく不自然なほどに口ごもりながら答えた大柄なリッキーに、いかにも気軽な調子で言ってから刑事マークは電話を切った。そのまま流れるようにニコラの見ている画面をのぞき込む。

「首席研究員の専門は……内分泌生理学か。ひとまず行ってみますか、メディカル・メルカ」

 ぐっと背伸びしたマークが目の前のPCを閉じようとして、ふとそちらを見たニコラがそれを止めた。

「どうしました? ニック先輩」

「いや、この写真……」

 先輩刑事がじっと見ているのは、15年前に起きた吸血鬼カルト集団殺人事件の関連ファイル。そこに収められた「現在行方不明の子供二人」の捜索願い届。その顔写真のサムネイル表示である。

 画面に、当時6歳だった少女と少年の顔写真が大写しになる。少女はブルネットの髪に、青い瞳。名はアビゲイル、「アビゲイル・フォートナー」。少年は真っ黒い髪に、アンバーイエローの瞳。名はテオドール、「テオドール・アパランチ」。

 書類の下方には届け出に添付された当時5歳の彼女の写真を専用ソフトで加齢させた画像が年齢ごとに数十パターン並んでいる。それを一枚ずつじっと見つめていくうちに、ニコラの眉間にしわが刻まれ、わずかに顔から血の気が失せていく。そして、後ろに立っていたマークをゆっくりと振り返り、視線が合うと苦く笑った。

「お前もそう思うか?」

「はい……。これじゃまるで」

 テオドール・アパランチという当時5歳の少年の捜索届の下に並んだ、現在の顔パターンの画像。そのどれもがコレンシウ伯の養子テオに似ていた。中には「そのもの」と言うべきものもある。

「こっちはアビゲイルって女の子の捜索届だ。こっちも当時6歳、順当に成長してれば今21歳なんだが……どうだ?」

 ニコラが先に見つけていたアビゲイル・フォートナーという少女のファイルを見せると、マークは表示された画像をうち一枚を大きく表示する。こちらもまた、あのコレンシウ伯の養女アビーをありありと思い出させた。

 マークは深くため息をついて、椅子にどさりと座り込んだ。

「……つまり、何です? 15年前の吸血鬼カルト集団殺人事件の被害者でありながら遺体が見つからず捜索届けが出されていた少年少女は、実はコレンシウ伯の養子として生きていたってことスか?」

「他人の空似って可能性もあるがな。それに、画像編集ソフトの精度の問題もある」

 マークの声はかすれていた。答えるニコラの声もまた低い。

 その時、マークのスマートフォンが派手に呼び出し音を鳴らした。ビクリと肩を震わせた持ち主が通話ボタンを押して機体を耳に押し当て、電話口の相手の言葉に数度頷き、そして、おもむろにニコラの方を向いて声を震わせた。

「ニック先輩。そのウラディミル・コレンシウ伯がパーティーを開催するそうです。主催の伯本人はもちろん、養子のテオ氏とアビー嬢も参加するみたいです」


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