第34話

─別に良かった。相手が俺をお飾り程度にしか思っていなくても。



大体にして俺自身が、彼女に何の感情も抱いてないのだから。



先輩と付き合うようになると、告白されることが増えた。求められるなら、誰でもどうでもいいと思った。



来る者拒まず、去るもの追わず。



恋愛感情なんてなくても、その時間は確かに自分が「神田」であることを忘れられた。それを次第に俺は錯覚するように「楽しい」と思い込んでいった。



親父が思い描く息子の理想像から離れたい気持ちがそうさせたんだ。



親父と対照的になるように、少しでも似ているところがないように。



その為か、思ってもいないことを口にするのは容易かった。




高校生になり、気づくと俺は「遊び人」の称号を与えられていた。




『龍成に本気になってはいけない』


『遊び相手なら龍成』




そんな噂ばかりが広がり、「神田グループ社長子息」の肩書きの方が、影が薄くなっていった。



馬鹿みたいだけど、一人の人間として認知されている気がして、俺は何となく満たされた。



楽な方に落ちていくのは驚くほど簡単で、あとのことは考えない、むしろ考えてはいけないと言い聞かせる。



言いつけを守っていたお利口の龍成は跡形もなく消え、言葉も乱暴になっていった。



…どこかであの人と一緒にいた男の言葉遣いを、意識していたのかもしれない。

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