第6話 「後輩指導と橋のポーズ」


「はぁ……」


 理沙はデスクの上に置かれた資料を見て、大きなため息をついた。


「これ、やり直しね」


 向かいに座る後輩の真奈に資料を返す。


「すみません……」


 真奈は申し訳なさそうに受け取り、肩を落とした。


 入社して半年の真奈は、素直で努力家だが、どうにも詰めが甘い。仕事のミスが多く、指導するたびに理沙のイライラは募るばかりだった。


(最近の若い子は、本当に根気がない)


 そう思うと、余計に苛立ちが増す。


「ちゃんと確認してって言ったよね?」


「はい……すみません……」


 理沙はため息をつきながら、ちらりと時計を見る。定時を過ぎていた。


(また残業か……)


 気持ちを切り替えようと、理沙はカバンを持ち、ヨガスタジオ「ルナ」へ向かった。


* * *


「今日は橋のポーズをやります」


 沙月の声が響く。


「橋のポーズは、体の軸を安定させながら、自分の力で支え、つなぐポーズです」


 理沙は仰向けになり、ゆっくりと腰を持ち上げた。


 背中で床を押し、体を支える。脚の裏がしっかりとマットについているのを感じた。


(支える……?)


 ふと、真奈のことが頭をよぎる。


 彼女の成長を支えるのは、先輩である自分の役目だったのではないか。


(イライラするより、支えることを考えたほうがいいのかもしれない)


 ポーズをキープしながら、理沙は自分の意識が変わっていくのを感じた。


* * *


 翌日。


 真奈がまたミスをして、理沙の元に謝りにきた。


 でも、昨日までのようにイライラはしなかった。


「どこで間違えたのか、一緒に見直そうか」


 そう言うと、真奈の顔がぱっと明るくなった。


「はい、ありがとうございます!」


 理沙は、小さく笑った。


 支えることで、誰かが前に進めるなら、それも悪くない。


 ヨガマットの上で気づいたことが、また一つ、現実の世界につながっていくのを感じた。

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