第7話 「片思いと鳩のポーズ」


 紗江は、スマホの画面を見つめたまま動けなかった。


『健太、彼女できたんだって』


 大学時代からずっと片思いしていた同期の健太。その彼に、新しい恋人ができたと知ったのは、たった一行のメッセージからだった。


(なんで……)


 もちろん、告白したわけではない。彼の隣に立つ資格があるとさえ思ったことはなかった。


 だけど、どこかで期待していた。


 いつか、彼が自分を選んでくれるかもしれないと。


 そんな淡い希望が、一瞬で砕け散った。


* * *


 その夜、紗江はヨガスタジオ「ルナ」にいた。


 いつものようにマットを広げながらも、頭の中は健太のことばかり。


「今日は鳩のポーズをやります」


 沙月の声が響く。


「鳩のポーズは、胸を大きく開き、心の奥にある感情を解放するポーズです」


 紗江は、ゆっくりとポーズをとる。


 片足を前に折り、もう片方の足を後ろに伸ばし、背中を反らせる。


 深く呼吸をすると、胸がぐっと開かれる。


(私の本当の望みは……)


 涙が、ぽたりとマットに落ちた。


 彼に愛されたかった? 


 それとも——彼を愛している自分を、認めてほしかった?


 紗江は、ゆっくりと目を閉じた。


 自分の気持ちを、ようやく素直に見つめることができた気がした。


* * *


 ヨガの帰り道。


 夜風が心地よく頬をなでた。


 スマホを取り出し、健太とのトーク画面を開く。


(おめでとうって、ちゃんと言おう)


 そう思えたとき、胸が少しだけ軽くなった気がした。


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