第7話

携帯を受け取って、本体の脇にある小さなボタンを押す。



画面に浮き出たデジタルの時計は、【18:07】と表示されていた。



(10分もたっていなかったのか…。)



確かに、探した時間はほんの数分だったのかも知れないけど


この音楽室――゙部室゙の中、西原といたこの空間が



…なぜか周りと切り離されたようにゆったりと感じ、でも、早く過ぎたようにも感じた。





…矛盾したこの不思議な感覚は


西原の持つ雰囲気が、俺に勝手にそう感じさせているのだろうか…。




―…珍しく、今日の俺には、らしくない事ばかり起こる。





ふと、窓の外に目を向ける。


外はやっぱり暗くて、窓のすぐ前に植えられている木々の、秋の色味に染まった葉が、ひらりひらりと舞い落ちている。



少しその様子を眺めて、目の前でソファーに座っている西原をまた軽く見下ろす。



彼女の視線と意識はもう文庫本に戻っていて、静かに読書を再開させていた。



「…じゃあ、俺、帰るけど…。」



活字を追っている西原に少しためらいがちに話し掛けると、『うん。じゃあね。』と、少しだけ目線を上げてくれてそう言った。



「…西原は、まだ帰んねぇの?」


『私はもうちょっとここにいる。』


「そっか…。」




彼氏でも待ってんの?とは聞けなかった。


今日初めて近くで接した相手に、そこまでプライベートな事に踏み込んでほしくないだろうし。(俺はそうだから。)



また本に目線を落とした彼女の邪魔をこれ以上しないように、俺は静かに踵を返した。




ドアの前まで行き、少しだけ振り替える。


そこから垣間見える、文庫本を読み耽る横顔がなんだか綺麗で、やっぱり儚げで――…。



でも、見ている気配を感じたのか、西原が不意にこっちに振り向いたので、俺は慌てて視線をドアに戻した。







今日、初めて彼女と至近距離で接して。


らしくない事ばかり、俺の身に起こった。




それがどういう事なのか、この時の俺はわからなかった。




あぁいった状況を経験したのは、今日が初めてだった。

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