第6話

俺が西原の目の前で止まると、彼女の姿が俺の影で若干黒く染まる。



立っている俺と、座っている西原。


足が短いソファに座る彼女の頭の位置は、丁度俺の腰辺り。



そんな彼女は文庫本に一旦しおりを挟んで閉じて膝に置き、近くまで来た俺に携帯を差し出そうと、顔と右腕を少し上にあげた。





――…間近で見た、彼女の顔立ち。



この半年、絡みは特に無かったけど、顔を全く見なかったという訳ではない。


可愛いか可愛くないかと問われれば、可愛い方だと思うし。


かといって、それが好みに当てはまるかとなれば、それはまた別の問題であって。





……でも、初めて間近で見た彼女は。




とても綺麗で、それでいて儚げな顔立ちをしていた。




大きくもなく、小さくもない。黒めがちですっきりとしている目元。


化粧はたぶん、しているんだろうけど…、変なニキビ跡とかが無い、綺麗な頬。



そして、肩まである綺麗なストレートの黒髪が、一層その顔立ちを鮮明に引き立てていた。






『……、神崎君?』


「――…っ、えっ?」



キョトンとした西原の呼び掛けに、俺はハッと我に帰る。



『どうしたの?右手出して立ったままボーッとしちゃって。』



余程変な風につっ立っていたのか、訝しげに俺を見やる西原に、少し焦って言う。



「あ…、悪い。サンキュ。」



改めて差し出した右手に、西原の右手が携帯を挟んで微かに乗っかる。



その指先が触れた瞬間―…神経が右手にだけに集中し、手の平が少し、らしくもなく緊張した。




それは、初めて彼女と間近で接したからだ。





――何故か無意識に、そう言い聞かせている自分がいた。

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