第5話
その掲げられている黒い携帯は、まさしく探していた俺の携帯だった。
小さなストラップが1個しか付いていない、見た目がとてもシンプルなそれ。
尚も掲げながら、『ソファの隅にあったよ。』と補足してくれた西原の言葉に、今日の部活後の俺の行動が思い出された。
―確か今日、楽器をしまう時にそのソファに座って。
ズボンの尻ポケットに携帯を入れていたのを覚えているから、座った時、不意に落ちたのかも知れない。
何はともあれ、捜し物が見つかった事に安堵した俺は、一歩一歩と西原の元に近づき
「サンキュ。」
携帯を受け取るべく、自身の右手をスッと、前に伸ばした。
――その時が、初めて彼女と至近距離で接した瞬間だった。
彼女とは実際、あまり仲は良くなかった。
……いや、それは悪い言い方だな。
同級生で、尚且つ今まで半年程部活で同じ空間を過ごしたのに、あまり絡みが無かったと言った方がいいか。
俺は元々友達作りに積極的な性格を持ち合わせていないし、(かと言って人見知りと言う訳でもないが)
友人は“狭く深く”なタイプだった。
だから、ましてや異性である西原とは多く接する事もなく部活をやってきたって訳だ。
でも西原も、俺の勝手な推測だけど、同じタイプのように感じていた。
絡みは無くとも、先輩や同級生が多く集う"部活"という空間の中で、色んな人とわいわい騒いでる姿を、あまり見た事が無かったからだった。
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