第4話

『……、』


「……よぉ。」



中に人がいた事に驚きながらも、ドアを開けてすぐに視界に入った人物に挨拶をした。




中にいたのは


同級生で、尚且つ部活仲間でもある西原恵だった。




彼女は、明らかに音楽室にはそぐわない―…、でも随分昔から置いてあったのであろう、少し古いソファに姿勢正しく座っていた。



そのソファは、部活が始まる前と終わった後の、部員達の溜り場でもあった。





――西原は俺と目が合うと、『どうも。』と短く返事をして。


そしてさっきまで読んでいたであろう文庫本に顔の向きを戻した。




「……、」



そんな様子に、俺はこれ以上声を掛ける事が出来ず、代わりに小さく



「おじゃまします…。」



と、まるで西原のテリトリーに入るような気持ちで、そろりと音楽室に足を踏み入れた。




皆が踏み入る音楽室なのに、この時ばかりは西原の読書の邪魔をしてはいけないと、思ってしまっていた。






(えーっと…、)



西原の存在が少し気になったけど、本来の目的である携帯を探す為、室内をキョロキョロと見回る。




机の上。椅子の上、下。


教卓の上にピアノの上。



一通り見回したけど、目立つはずの黒い携帯は見つからない。




後、探してない所と言えば――…、






『―もしかして、これ?』






うーん、と。思案し始めた俺の後ろから聞こえた声。




その声に反応して振り向くと



文庫本から俺の方へと再度顔の向きを変えていた彼女が、右手に黒い携帯を掲げていた。

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