第2話 再生への第一歩

翌朝、修造は早くから目覚めた。昨日の出来事を思い返し、これからの計画を練る。彼の脳裏には、商店街の地図が鮮明に浮かび上がっていた。


「まずは、個々の店の強みを高めていく必要がある」


修造は、昨日訪れた3軒の店から始めることにした。


橘ゆかりの八百屋では、季節限定の惣菜を提案、協力し見事な一品が次々と生まれていく。販売後はあっという間に、惣菜が完売。


黒崎文人の古書店では、毎週おすすめコーナーを作る提案をし、本や演出を並べていく。手に取る人、購入する人が増えていき、コーナーの本も早くに完売。


三浦さくらの銭湯では、週一の入浴後ストレッチ教室を提案、修造考案のストレッチ方法に、多くの常連客が参加し、興味津々の様子を見せてくれた。


修造は商店街を歩きながら、行動を決めた。

「よし!他の店舗も回ってみよう。この商店街には、まだまだ可能性がある」



向かったのは、老舗の和菓子屋「松風堂」。店主の松田健一は、修造を見ると少し驚いた様子で迎えた。


「おや、修造さんじゃないか。随分と変わったねえ」


修造は丁寧に頭を下げた。「お久しぶりです、松田さん。実は今日は、ご相談があって来ました」


松田は興味深そうに耳を傾けた。修造は和菓子屋と八百屋のコラボレーションを提案した。


「橘さんの季節の野菜を使った和菓子はどうでしょう?例えば、春なら桜餅に加えて、菜の花を使った新作和菓子とか」


松田は腕を組んで考え込んだ。「面白い案だね。でも、新しい和菓子を作るのは簡単じゃないよ」


修造は自信に満ちた様子で言った。「私も協力します。それに、お客さんにアイデアを募るのも良いかもしれません」


二人は早速、試作品作りに取り掛かった。修造の新しい発想と松田の伝統的な技術が融合し、斬新な和菓子が次々と生まれていく。


試食会を開いてみると、予想以上の人が集まった。


「これ、珍しくて美味しいわ」

「和菓子なのに、野菜の風味がしておもしろい」


松田は驚きと喜びが混ざった表情で修造を見た。「君のアイデア、なかなかのものだね。これなら新しい客層も開拓できそうだ」


次に修造が向かったのは、小さな雑貨店「ハピネス」。店主の佐藤美咲は、在庫の山に埋もれて途方に暮れていた。


「佐藤さん、こんにちは。何かお困りですか?」


美咲は疲れた表情で答えた。「ああ、修造さん。最近は売れ行きが悪くて...この在庫をどうしたものかと」


修造は店内を見回しながら提案した。「これらの雑貨、テーマごとに分けて展示してみませんか?例えば、『春の模様替え特集』とか」


美咲は少し戸惑いながらも、修造の提案に従って店内のレイアウトを変更し始めた。さらに修造は、黒崎の本屋と連携するアイデアも出した。


「黒崎さんの本屋で、インテリア関連の本を展示する時に、佐藤さんの雑貨も一緒に飾るのはどうでしょう?」


美咲の目が輝いた。「それ、いいアイデアね!本を見た人が、実際の雑貨も見られるなんて」


「ハピネス」には久しぶりに活気が戻ってきた。テーマ別の展示を見た客たちは、思わぬ組み合わせに興味を示し、幾つかの商品が売れていった。


夕方になると、修造は商店街の中央にある小さな広場に集まった店主たちと話し合いを持った。橘ゆかり、黒崎文人、三浦さくら、松田健一、佐藤美咲、そして他の数名の店主たちが集まっていた。


「皆さん、ここ数日で少しずつですが、変化が見えてきました」修造は熱心に語り始めた。「でも、もっと大きな変化を起こすには、商店街全体で協力する必要があります」


店主たちは興味深そうに耳を傾けた。修造は商店街全体でのイベント開催を提案した。


「月に一度、『わくわく商店街祭り』はどうでしょうか。各店舗が特別な商品やサービスを提供し、スタンプラリーなども行う。そして、この広場では様々なパフォーマンスや体験型のワークショップを開催する」


店主たちの間でざわめきが起こった。


「面白そうだけど、準備が大変そうね」とゆかりが言った。

「うちみたいな小さな店でも参加できるのかな」と美咲が不安そうに尋ねた。


修造は全員の顔を見回しながら答えた。「確かに大変かもしれません。でも、皆で協力すれば必ずできます。それに、各店舗の個性を活かしたアイデアを出し合えば、小さな店舗でも十分に参加できますよ」


議論は白熱し、次第に具体的なプランが形になっていった。最終的に、来月から「わくわく商店街祭り」を試験的に開催することが決まった。


話し合いが終わった後、黒崎が修造に近づいてきた。「修造、君は一体どうしてこんなに変わったんだ?」


修造は少し戸惑いながら答えた。「実は...色々あって、今までできなかったことができるようになったんです。皆さんへの恩返しがしたくて...」


黒崎は不思議そうな顔をしたが、それ以上は追及しなかった。「そうか。君の力で、この商店街も変わりそうだ」


修造は照れくさそうに笑った。「いえ、みんなで力を合わせているからこそです」



その夜、修造は充実感に満ちた気持ちで眠りについた。

「少しずつでも、お世話になった皆さんに恩返しができている。これからも頑張ろう」


そう心に誓いながら、修造は静かに目を閉じた。変化の波は、確実に広がり始めていた。


ーーー

次回、「準備と試練」

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