転生? いや才能をくれ! 人生詰んだホームレスが世界を救う
@shingoK777
第一部
第1話 才能を授かる
冷たいアスファルトの上で、神谷修造は息絶えようとしていた。60年の人生が、今まさに幕を閉じようとしている。空腹と寒さで震える体に、もはや力は残っていなかった。
「努力すれば報われるなんて...嘘だったんだな...」
かすれた声で呟きながら、修造は静かに目を閉じた。幼い頃から「努力は必ず報われる」と信じ、懸命に生きてきた彼だったが、現実は残酷だった。才能の壁は高く、どれだけ努力しても乗り越えられなかった。
プログラミング、営業、料理――様々な分野に挑戦したが、結果は惨憺たるものだった。45歳の時、勤めていた会社が倒産。「大丈夫だよ、また頑張ればいいわ」と妻が言ったが、彼女の疲れ切った表情は見ていて心苦しかった。子供とも、徐々に連絡を絶ってしまった。
そして修造は路上生活を余儀なくされた。努力の末に得た小さな成功も、全て水泡に帰してしまった。最後の15年間、彼はただ生きるだけの日々を送っていた。寒さと飢えに苛まれながら、かつての夢や希望を忘れ去っていった。
「もう...終わりだ...」
そう思った瞬間、修造の意識は不思議な空間へと引き込まれた。周囲は柔らかな光に包まれ、目の前には神々しい存在が立っていた。
「神谷修造よ」その存在が語りかける。「汝の人生は、ここに終わりを迎えた。今こそ、新たな魂として転生し、別の人生を歩む時だ」
修造は驚きのあまり言葉を失った。死後の世界など信じていなかったが、今、確かにその只中にいる。しかし、転生という言葉に、彼の心は激しく反発した。
「待ってくれ!」修造は必死に叫んだ。「私にはまだ...まだやり残したことがある。こんな無力な自分でも、助けてくれた人たちがいたんだ。橘さんは毎日野菜をくれた。黒崎さんは本を貸してくれた。三浦さんは...時々お風呂に入れてくれた。その人たちに恩返しがしたい。だから...転生はいらない。代わりに、才能を授けてくれないか?」
神秘的な存在は、修造の懇願に静かに耳を傾けた。長い沈黙の後、その存在は穏やかな声で答えた。
「汝の願い、理解した。だが、才能を授かった後の人生は、汝自身の選択次第だ。善きにつけ悪しきにつけ、全ては汝の責任となる」
修造は固く頷いた。「分かっている。どんな結果になろうとも、私は後悔しない」
その瞬間、修造の体に変化が起こった。頭脳が急速に活性化し始め、目に映る全ての情報が瞬時に理解できるようになった。それは単なる理解にとどまらず、応用や再構築までもが可能な能力だった。さらに、体内の代謝が劇的に向上し、摂取した栄養を効率的に筋肉や神経組織に変換できるようになった。
「ここは…」
修造は現実世界に目覚めると、激しい空腹感に襲われた。本能的に体が栄養を求めているのを感じた。近くの川に向かうと、そこで驚くべき光景が広がった。水中の魚の動きが、まるでスローモーションのように見える。
「これが...才能なのか」
修造は躊躇なく川に飛び込み、素手で次々と魚を捕まえた。岸に上がると、周囲の木々を観察し、最適な枝を選んで摩擦で火を起こした。焚き火で魚を焼き、むさぼるように食べた。
「うまい...こんなにたくさん食べれたのは何年ぶりだろう」
この行動を数日間繰り返すうちに、修造の体は驚くべき速さで変化していった。筋肉が隆々と発達し、反射神経も鋭くなっていく。かつてのやせこけた姿は、見る影もない。
体力に自信がついた修造は、次に知識の獲得に向かった。街の図書館を巡り、驚異的な速さで本を読み進めていく。哲学、科学、経済、芸術――あらゆる分野の知識が、彼の脳に刻み込まれていった。
「こんなに...世界は広かったのか」
数週間後、修造は見違えるほど変貌を遂げていた。鍛え上げられた肉体と、膨大な知識を蓄えた頭脳。そして、それによりみなぎる活力が彼に宿っていた。
かつて世話になった商店街に戻った修造は、まず橘ゆかりの八百屋「橘青果」に向かった。店の前には、廃棄予定の野菜が山積みになっている。ゆかりは、疲れた表情で野菜を眺めていた。
「橘さん」修造が声をかけると、ゆかりは驚いて振り返った。
「まあ!修造さん?随分変わったわね。元気そう...というか、別人みたい」
修造は照れくさそうに頭を掻いた。「はい、色々あって...今は元気です。それより、この野菜、捨てちゃうんですか?」
ゆかりは肩を落として答えた。「ええ、最近は客足が遠のいて...売れ残りが多くてね」
修造は真剣な表情で言った。「実は、この野菜を使った新しい料理を考えたんです。良かったら試してみませんか?」
ゆかりは半信半疑の表情を浮かべたが、修造の熱意に押されて同意した。修造は手際よく調理を始め、あっという間に斬新な一品を完成させた。ゆかりは恐る恐る一口食べると、目を丸くした。
「これ、おいしいわ!こんな料理ができるなんて、修造さん、本当にどうしたの?」
修造は嬉しそうに笑った。「色々勉強したんです。この料理、お店で出してみませんか?廃棄予定の野菜を有効活用できますよ」
ゆかりは明るい表情を取り戻した。「ありがとう、修造さん。こんなアイデアをくれるなんて本当に助かるわ」
これが、修造の商店街再生計画の第一歩となった。
次に、修造は黒崎文人の古書店「智の蔵」に向かった。店内には、埃をかぶった古い本が山積みになっている。文人は、諦めたような表情で本を整理していた。
「黒崎さん」修造が声をかけると、顔を上げた文人は驚いた。
「おや、修造か。随分変わったな。...というか、本当に修造か?」
修造は笑いながら答えた。「はい、本物です。黒崎さん、これらの本、素晴らしい価値があるんです。もっと効果的に展示してみませんか?」
文人は疑わしげな表情を浮かべた。「そうかな?最近は誰も本なんて買っていかないよ」
修造は熱心に説明を始めた。「いいえ、そんなことはありません。この本は希少価値が高くて...」
彼の言葉には説得力があり、文人は次第に興味を示し始めた。二人は協力して店内のレイアウトを変更し、貴重な本を目立つように配置した。
「こんな風に並べれば、きっと興味を持つ人が増えますよ」
文人の目に、久しぶりの希望の光が宿った。「そうかもしれないな。ありがとう、修造」
最後に、修造は三浦さくらの銭湯「三浦湯」を訪れた。さくらは、心配そうな表情でボイラーを見つめていた。
「三浦さん、何かお困りですか?」修造が声をかけると、振り返ったさくらは驚いた。
「まあ、修造さん?随分変わったわね。...ええ、ボイラーの調子が悪くて...このままじゃお客さんに迷惑かけちゃうわ」
修造は即座に「任せてください」と答え、持ち前の知識と器用さを駆使してボイラーを修理した。さらに、エネルギー効率を上げる改良まで施した。
さくらは感激して言った。「ありがとう、修造さん。こんなに素晴らしい仕事をしてくれて...お礼と言っては何だけど、これからはいつでも無料で入浴していいわよ」
修造は感謝の念を胸に、三浦湯で一日の疲れを癒した。湯船に浸かりながら、彼は明日への思いを巡らせた。頭の中では、既に商店街全体の再生計画が形作られつつあった。
「みんなの笑顔を取り戻すんだ。それが私の...恩返しだ」
この日を境に、修造の新たな人生が始まった。彼は自分の才能を最大限に活用し、商店街の人々に恩返しをしながら、街全体の活性化を目指していく。その道のりは決して平坦ではないだろうが、修造の心には強い意志が芽生えていた。
ーーー
次回、「再生への第一歩」
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