第71話

後ろの棚の上に置いてあった自分のスクールバッグを手に取って、最後に忘れ物がないか教室を見回した。


「なに、これ…?」


何気なく視線を向けた先で私の視界に飛び込んできたのは、まるでハサミを入れられたみたいに大きく切られた暗幕だった。


それは教室をシアターに見立てるために、カーテンの代わりに窓全体を覆うようにかけてあったもので、真っ黒い布にキラキラ光るスパンコールを一つ一つ手作業で縫い付けた。



破られていたのは黒板に近い窓にかけられた一枚だけだったけれど、たしかにさっきまでは何事もなくそこにかかっていたと思う。


どうして。そう思わずにはいられなかった。


自然にこんなことが起こるとは思えないし、最後にクラスの誰かが教室を後にしてから、私がゴミ捨てから戻ってくるまでの間に起きた出来事であるのは明らかだった。



その暗幕を手に取ると、切られた布の端からパラパラとスパンコールが落ちてきた。

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