第66話

本橋先生は英語の先生で、たしか26歳か27歳くらいだったと思う。


私は本橋先生の授業を受けたことはないけれど、いつも胸元が大きく開いたシャツとぴっちりとしたタイトスカートを履いているから、男子生徒の視線を釘付けにしているらしい。


学校に相応しい服装とは思えない、と奈々ちゃんは怒っていたけれど、幸坂先生はそんなセクシーな女の人なんて見慣れているのかもしれない。


年上の本橋先生にも全く動じずに、私たち生徒に向けるよりも丁寧で他人行儀な態度で応じていた。



幸坂先生は去り際にこちらをちらりと振り返ったように見えたけれど、今度はその唇は動かなくて、私に何にも伝えてはくれなかった。


正しくは何か言おうとしていたのかもしれないけれど、本橋先生に引っ張られてそのまま行ってしまった。



私は幸坂先生まであと三歩くらいの距離で固まったまま、茫然とその様子を眺めていた。


助けてってそう言ったのに、内緒話をするみたいに私だけに伝えられたその言葉に、私は簡単に嬉しくなって浮かれていたのに。


結局、あの場から連れ出してくれる人なら誰でもよかったのだろうか。



幸坂先生の黒髪の緩いウェーブを見ただけでキュンと弾んだ心が、一気に冷やされた気がした。

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