第62話

3年生の夏休みは受験勉強に本格的に取り組み始める期間でもあってそれぞれに忙しかったけれど、私たちのクラスは短い映画を作って、教室を映画館に見立てて座席やスクリーンを作り、上映していた。


不朽の名作「銀河鉄道の夜」をベースに、ところどころアレンジを加えた脚本だ。


夏期講習の空きコマなどを利用して、クラスのみんなで役割分担して作業を進めてきたけれど、中には文化祭の準備に協力的でない子たちもいて勉強と行事との両立は正直とても大変だった。


とは言っても、私は衣装係と教室の装飾係として制作をしていただけなので、忙しい中実行委員をを引き受けてクラスをまとめてくれた奈々ちゃんには頭が上がらない。



かっきーと受付係をバトンタッチした私は、次の上演時間まで教室の前でお客さんの呼び込みをすることにした。


毎年日曜日の方がたくさんの人に来てもらえるイメージだけど、今年は土曜日の時点でこんなに来場者がいるなんてすごいなあ、と思いつつ、パンフレットと教室の入り口を交互に見ながら過ぎ去って行く人たちを観察する。



と、そこにひと際背が高くて顔が小さい、遠目からでもスマートな雰囲気を漂わせる男の人を発見した。

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