第55話

「なんだかロマンチックじゃない?キュンでしょ。」


「そんなゲロ甘なこと男に言わせんの?普通無理だって。」


「そうですね、自分がそう呼ばれても鳥肌が立ちそう。」


奈々ちゃんも幸坂先生も、キュンどころかすごく現実的な感想を述べてきて、私との間に大きな温度差を感じた。


むうっと拗ねたふりをしてみたけれど、私が一瞬襲われたあの嫌な感覚には気付かれていなかったみたいで、そのことに安堵していた。


「でも、篠宮のこと大切にしたいって思ってる相手ならきっとそう呼んでくれるよ。お前が嬉しそうに振り返る顔が、好きでたまらないやつなら。」


ほら、幸坂先生は私がどんなにお花畑な考えを言っても、それを否定したりしない。


俺にとってはありえないなって言いながらも、でもお前ならいいじゃんって笑ってくれる。


最後まで、馬鹿にしないで聞いてくれる。


そういう優しさを、彼が教師としてどの生徒にも当たり前に与えているであろう優しさを、私は当たり前には受け取れなくて、勘違いしては胸をときめかせている。


先生が隣で笑ってくれるなら、欲を言えばすみれってその声で呼んでくれるなら、例え一生スイートハートって呼ばれることはなくても幸せだ、なんてふわふわと現実味のないことを考えた。

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