第53話

「潤君ってどうして奈々ちゃんのことだけ名前で呼ぶんだろうね?」


「さあ、なんでだろうね。部活も一緒だし、周りのみんなもそう呼ぶからじゃない?」


「でも、私のことはいつまで経っても“篠宮さん”だよ。」


奈々ちゃんはとっくに貸し出し用のノートを書き終えていたのに、いつまでも目の前で話し続ける私たちに痺れを切らしたのか、そこで幸坂先生が口を開いた。


「はいはい、ガールズトークは帰りの電車でやってねー。」


「先生も参加してもいいですよ。特別に!」


私が明るい声でしたその提案に、幸坂先生は心底面倒そうな顔をした。そして実際に躊躇いなく私の案はぶった切られた。


「しねえよ。なんで俺が参加したいと思ったんだよ、逆に。」


「生徒と交流、図りましょうよ。にこやかな幸坂先生はもっとかっこいいと思います。」


「っていうことは、今でもそこそこかっこいいと思ってくれてるんだ。じゃあ先生はそれでもう満足です。」


おかしそうに私たちのやりとりを見守っていた奈々ちゃんは、予想通り私が言い負かされたのを聞いて小さく声を上げて笑った。

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