第51話

「失礼します。」


私が場所を案内してあげたのに、奈々ちゃんは私よりも先にドアを開けた。


当たり前のように小さくお辞儀をしてから入室した彼女は、きっと幼い頃からお家できちんと躾けられてきたのだろう。


奈々ちゃんの丁寧な所作の一つひとつに、私は見習うところばかりだ。


「はい、どうぞ。お前たちも夏休みなのに、偉いね。」


幸坂先生はいつもの席に座って、今日はプリントの採点をしているみたいだった。


濃いめのブルーのシャツと紺のスラックスの組み合わせが完璧で、夏でも学校ではラフな格好をしないのが先生らしいと思った。


「幸坂先生も、化学の講習持ってますよね。お疲れ様です。」


「そうそう。生徒が勉強熱心なのは嬉しいけど、俺の仕事が増えるわ。」


奈々ちゃんは幸坂先生の講習を取っているらしくて、それはもちろん私には必要のないものなのに、夏期講習の予定表が配られた時その日程をチェックしたりしてしまった。

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