第41話

「窓、眩しいですね。でもこれくらいが明るくて気持ちいいです。」


ふわり、笑って見せると幸坂先生は一瞬、虚を突かれたようにこちらに視線を向けたまま固まってしまった。


あれ、私なにか変なこと言ったかな、と訝しい気持ちになっていると、先生はやっと動きを再開させた。


「お前ほんと、楽しそうに笑うよなあ。」


半ば感心したようにそう言われて、私は彼の少し柔らかい空気の不思議にどうしても触れてみたくなってしまって、引き寄せられるように近づいた。


「先生は綺麗に笑うなっていつも思います。あ、これもキュンな瞬間ですよ。」


「だから俺には分かんねえって。」


呆れたように笑うその顔は、長い睫毛が少し伏せられてもなお綺麗で、私の表現は間違っていなかったと妙な自信を得た。


「分かんないって言うわりに悲しそうな顔するから、気になっちゃうんです。幸坂先生の毎日は今でもきっと充実してるに決まってるけど、キュンを見つけたらもっと素敵になります。」


急に生意気なことを言い出した私に驚いたのか、幸坂先生は伏せていた目を大きくして私を見つめた。


何言ってんだこいつ、って思われているのかもしれない。

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