第40話
例のごとく美月ちゃんの行動の早さに助けられてなんとか時間内に実験を終えた私たちは、今日の分の実験プリントを片手に化学室をあとにした。
「あーお腹空いた。すみれちゃん、後でさっきの実験の温度表見せて。」
私は結局実験の後半は記録係に徹して、ひたすら温度や金属片の色の変化を書き留めていたのだけど、なんだかその方が色んな事がスムーズに進んでいてちょっと悲しくなった。
始めからあんまり手を出さない方がよかったのかも。
「うん、いいよ。あ、ノート化学室に忘れたかも。ごめん、先に教室戻ってて。ちょっと机の中見てくるね。」
私たち3年生の教室と化学室はどちらも4階にあるから、戻るために階段を登る必要がないことは幸いだ。
パタパタと小走りで化学室の前まで着いたらその足音が聞こえていたみたいで、まだ教室にいた幸坂先生がちょうどこちらを振り返ったところだった。
「どうした、篠宮。忘れ物?」
「はい。すみません、ノート、忘れちゃって。」
別に俺に謝ることじゃないだろ、と小さく笑った幸坂先生は窓際の水道の前に立っていた。
まどろみを誘うような太陽光に照らされているからか、その笑顔や纏う空気がいつもより柔らかく見えた。
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