第42話

その瞳の奥に、彼の心を溶かせる愛の形が見つからないかと一生懸命探してみたけれど、それは私がそうやって見つけられるほど単純なものではないようだ。


「じゃあ、お前がそれを教えてくれんの?」


幸坂先生は、感情が読み取れない表情をしていた。


私を引きずり込むような甘さはないし、かといっていつものような気だるげな顔でもない。


多分ほんの数秒、私たちは目を合わせていただけだった。


それでも私にはその時間が、空間が一瞬の中の永遠に感じられて、まるで冷凍保存されたみたいに指先一つでさえ動かすことが出来なかった。


私たちを包みこむ柔らかい自然光を先に揺らしたのは、幸坂先生だった。


「ごめん嘘、忘れて。」


そう言いながら私に背を向けて、教室の前の方へ歩いて行ってしまった。



先生は、休み時間とか放課後の時間に話すと、大勢の生徒の前で教壇に立っている時よりも少し雑な言葉遣いになる。


私はそのことを、先生と進路指導室で話すようになってから知った。


きっと本人は意識していないのだけど、オンとオフのスイッチみたいなものがあるのかもしれない。



今は、どっちだろう。昼休みになったばかりの化学室で、生徒と二人で話している幸坂先生は、どっちの幸坂先生なのだろう。

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