第39話

「そっかあ。かっきーがいつか女の子に刺されたりしないかなって私は心配だよ。」


「その時はすみれちゃんが命懸けで守ってくれる約束でしょ?」


ええ、そんな約束はした覚えがないし、この先する予定もない。


かっきーの人の変化にすぐに気付ける細やかさとか、冗談を言うときと真剣に話すときの微妙な声のトーンの違いとかが私はすごく好きだけど、私たちの恋愛観は絶望的に合わないと思う。


「あーあ俺の心を奪ってくれる子、いないかなあ。」



彼女と別れたばかりの状況で、平然とそんなことを言ってのける彼のキュンの見つけ方は、とても難解だ。


もしかしたら、幸坂先生とかっきーは少し考え方が似ているのかもしれない。


かっきーは恋とか愛を追いかけようとしているけれど、その反面、他人にそういったものを全く期待していないようにも見える。


ただ、向けられた好意を受け入れるか拒むかだけの違いだ。



それ俺がやるよ、と言って私の手からあっさりと試験管を奪った彼に、この優しさを一心に注ぎたいと思える相手が早く見つかりますように、と余計なお世話かもしれないけどそう願ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る