第34話

かっきーと同じ机にいると、彼の愛嬌たっぷりのいらずらっぽい笑顔と「ねえねえ、すみれちゃん」と呼びかけてくる潜めた声に勝てなくて、気付けば二人でおしゃべりが始まってしまう。


それでも苦手な教科こそ集中しなければと、今日は真面目にノートを取りながら実験の説明を聞いていたのに、ただ文字や図をノートに並べていただけで、その意味は理解出来ていなかったみたいだ。



「へえ、篠宮、俺の説明聞いてなかったんだ。先生ショックだなあ。」


6つの班の机を順番に回っていた幸坂先生が、タイミング悪く私たちの班の様子を見に来てそんなことを言った。


かっきーがわざとらしく肩をすくめて頷く。


「そうなんです。すみれちゃん、苦手でも頑張るのが良いところなはずなのに。」


「え、かっきーありがとう。じゃなくて!実験も一生懸命やってます。先生の話を聞き逃したりしてませんよ。」



本当かよ、なんて薄く笑っている幸坂先生も今日は白衣を着ていて、私と同じように捲った袖口から見える腕のラインが男の人で、ドキドキしてしまった。


先生が白衣を着ている姿なんて校内でも見かけるし、特に珍しいものでもないはずなのに、私の視線の先はやっぱり幸坂先生に捕らわれている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る