第29話
先生は、なにか頼み事をする時以外にもあの甘い声を使う時があるみたいだ。
私みたいな生徒を、応援するとき。お前なら出来るよって言い聞かせるとき。
「だから、お前を助けるのはそんなに悪くないかなって思えるわけ。」
まあ面倒なことはしないけど、と付け加えて顔を離した幸坂先生はすっかりいつも気だるげな様子で、全然甘い声なんかじゃなかった。
それでも、私はああダメだと確信した。
私はもう完全にこの危険な魅力を振りまく幸坂昴という男に落ちてしまったし、目を逸らせないほどに眩しい奇跡みたいな感情の名前を見つけてしまった。
それと同時にこの恋が報われることは絶対ないって分かっている自分がいるし、私の気持ちは彼の言う「面倒なこと」のど真ん中だろうな、と簡単に想像できた。
半分は手をかざしたくなるほどに眩しくて、もう半分はどうしようもなく暗い。
それは確かに私の世界の見つめ方に似ている気がした。
「私、幸坂先生にもキュンを分かってもらいたいんですけど、どうしたら良いですか。」
「やっぱり私じゃ、力不足でしょうか。」
私は衝動のままにそれを口走ったのだと思う。
制服のスカートのプリーツを、ぎゅっと掴んだ。
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