第28話

「よし、決めた。ここにします。ちょっと頑張らないと多分厳しいけど。私に頑張れるか不安ではあるけど…」


だんだん自信なさげに小さくなっていった自分の声を聞いたとき、幸坂先生が高い背をかがめて私が持っていた大学の資料をのぞき込んできた。


パンフレットに自分ではない影が落ちたのを不思議に思って顔を上げたら、幸坂先生の綺麗な顔が目の前にあって、思わずパンフレットを落としそうになってしまった。


心臓がドキドキと加速して、耳のあたりに熱が集まるのを感じる。


「出来るよ、頑張れる。俺はキュンは理解出来ないけど、お前のことなら少しは分かる。篠宮のいつも笑顔でいようとするところも、能天気さも、全部自分で頑張るためのものなんだろうなって思ってる。」


幸坂先生の魅力には、底がない。どんどん好きになって、沈んで苦しくなるだけだ。


他人になんて興味がないふりをして、本当はちゃんと見ていてくれる。


誰にも、言ったことがなかった。


お花畑と言われた私の思考の理由も、どうして暗い気持ちをこんなに恐れているのかも。


多分、幸坂先生は私が蓋をして目を逸らした過去も、心を覆う薄いガラスの膜が割れそうになる瞬間も、何も知らない。


それなのに、どうして分かってしまうのだろう。

こんなにも、私のハートを揺さぶることが出来るのだろう。

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