第27話

「でも、効率的な選択肢にはキュンがないかもしれませんよ。」


「キュン?」


幸坂先生はそこでやっと顔を上げて、漆黒の中に意思の強そうな光を覗かせる切れ長の瞳で私のことを見つめてきた。


片方だけ眉を上げて、何のことだ、という顔をしている。


「ときめきです。どんよりした毎日でも、少しだけ明るくしてくれるような胸のドキドキ。」


私は奈々ちゃんと潤君の何とも言えない胸キュンな距離感を思い出して、自然と口角を上げて幸坂先生にふふっと笑ってみせた。


「ときめき、ねえ。俺は運命とか信じない主義だけど、お前がそういうこと言うのはちょっと可愛いと思う。」


おかしそうに笑ったその人に、私は胸が焦がれるっていう思いを初めて体験した。


私がこの人にキュンをあげたいと、そう思った。

そんなに優しく笑えるくせに、運命なんか信じないって一瞬暗い瞳をした幸坂先生に、ときめきを感じてほしい。



私は突然言われた可愛い、に上手く言葉を返せる気がしなくて、手に持っていた資料に視線を戻した。


そうやって顔を下げたから、先生がいつものお誕生日席を立ってこちらに歩いて来たことに気が付かなかった。

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