第26話

一学期の終わりまでには志望大学を決めとけよ、と担任に言われたことを思い出して、私はまた進路指導室に行ってみることにした。


その部屋は毎日開いているのに、わざわざ金曜日に行くことにしたのは、多分偶然ではない。



「おお篠宮。本当にまた来た。今日はどうした?」


そんなに声を張っているわけではないのに幸坂先生の低音はよく通るから、私はこの声で呼ばれる自分の名前が好きだ。


「今日こそ志望校を決めようと思って。もうだいぶ候補は絞れてきたんです。」


この前と同じ、縦に長い会議机の入り口側の端に自分のスクールバックを置いて、大学の資料がしまってある左側の棚へと向かった。


相変わらず五十音順がところどころ乱れていて、私は自分の見たい資料を探しながら簡単にそれらを整理していった。



「幸坂先生は何かに迷ったとき、どうやって決めるんですか。」


「一番効率的な選択肢を選ぶ。だから、そもそもあまり迷うことがない。」


先生は机に座ったまま、おそらく授業で使うプリントの準備をしながらそう答えたから、伏せた長い睫毛がよく見えて綺麗だった。


その整った横顔と彼らしい解答に、私は少し寂しさを感じてしまった。

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