第9話

分かってはいたけれど、一緒に探したりはしてくれないらしい。

さすがの放置プレイだ。


でも私はそんな幸坂先生の生徒との距離感が意外と心地良かったりする。


友達みたいにフランクに話してくれるけど、必要以上には干渉してこないし、先生らしいアドバイスもたまにはくれる。


「先生、ここの資料何順ですか?」


「え、普通に五十音順になってない?」


「うーん、ところどころ乱れてる気がします。」


「まじか、知らなかった。篠宮また今度来て整理してってよ。」


幸坂先生はノートに視線を落としてペンを動かしたまま、器用に会話する。


私だったら絶対に手が止まるか、字を間違えてしまうから素直にすごいと思う。


先生は、他人の動かし方をよく分かっている。

何か頼もうと企んでいるときは、その低い声が少しだけ甘くなって、いいですよって頷きたくなってしまう。


私もそのまま首を縦に振りそうになって、危ないあぶない、となんとか冷静な判断を取り戻した。


うっかり雑用を引き受けてしまうところだった。

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