第8話

去年幸坂先生が赴任してきて、全校朝礼の場で初めてその姿を見た時は、なんでこの人教師になったんだろう、とそんなことを思うくらいにはかっこよかったし、生徒たち(主に女子)にも騒がれていた。


「今年度からお世話になります、幸坂昴です。担当は化学。よろしくお願いします。」


他の先生たちがこの学校の生徒を大げさに褒めたり、何日も考えたんだろうなあというジョークを披露したりして笑いを取ろうとする中で、彼はとてもシンプルな挨拶をしていた。


それが逆に印象に残っていて、すばる、と呼ぶ機会なんてないと分かっている名前の響きを、私はその一回で覚えてしまった。



「で、篠宮は何を悩んでるの?俺もうすぐ職員会議だからちゃっちゃと話してね。」


美しい顔を少し傾げて優しく聞いてくれた、と思ったらさっさと話せ、と言われただけだった。この人はこういうところがある。


別に冷たい訳じゃないんだけど、いつもどこか気だるげで現実的なのだ。


女子高生たちの夢見がちな恋に付き合ったりはしない。

私のことだって能天気な小娘、くらいに思っているのかもしれない。


「うーん、ざっくり言うと大学が決まらないって感じです。でも別に今すぐ相談したいってこともないので大丈夫です。適当に資料見て行っていいですか?」


「おお、いいよ。俺もここで仕事してるから、お前も好きに過ごしてってくれれば。」

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