第7話

「じゃあ、幸坂先生が私の進路の相談も受けてくれるってことですか?」


「まあ、お望みなら。でも篠宮が相談とは意外だなあ。お前、いつも悩みとかなく楽しそうにしてるじゃん。俺の授業中は窓から外見てばっかりだけど。」


うわ、ばれてたんだ。

私たちの学校では化学基礎が必修で、しかも何故か文系の生徒は三年生になってからその授業を取らなければならないのだ。


だから私は火曜日の4限、この先生が黒板の前に立つのを毎週見ている。



「授業も聞いてますよ、ちゃんと。でも、文系人間には難しいんです化学基礎。先生も4時間目だからってだるそうにしてるじゃないですかあ。」


「うわ、俺のせいって言いたいのか文系人間。あんなに分かりやすく教えてるのに。」


幸坂先生は喋りながらこちらへ歩いてきて、私の横を通り過ぎてさっきのお誕生日席に座った。

あのノートとペンケースは先生の物だったらしい。


「先生それ置きっぱなしだったから、誰かの忘れ物かなってちょっと心配になっちゃいました。」


「さすがにこんなに堂々と忘れ物してかないって。プリント取りに行ってただけ。」


大人の余裕を滲ませながら笑うその顔は、確かにかっこいいと思う。


すっきりとした黒髪は、天然なのかパーマなのか緩くウェーブがかかっていて、それがあんまり教師らしくない。


180センチくらいだと見える高い身長に対して、小さすぎるその顔には美しい切れ長の瞳と高い鼻筋、薄めの唇がバランスよく配置されている。

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