第六話 雪のろく

 

◇◇◇

 

 中学生活を送るなかで、これはアリサには内緒にしとくべきだと思うんだけど。

 バスケットボール部の大会がある時なんかには、コッソリと気づかれないようにアリサの頑張る姿を見に行ったりした。


 試合のことをアリサに直接聞いたりしてないし、私がアリサの活躍を見たかったから、職員室前の黒板に書かれた予定表で勝手に調べただけなんだけどね。


 もしも家族に応援に来られるのとかが恥ずかしかったら、私に見られてるのもアリサは嫌がるかもとは考えたり。

 小学生の時から引き継いだ『アリサの邪魔はしないように』って、そんな心掛けはちゃんと持ち続けていたものの。


 それでもアリサがカッコよく活躍するところは見たくなっちゃって、どうしても我慢できずにそんな秘密活動を続けてしまっていた。

 なんかもうアリサのファンというか、それも飛び越えてストーカーみたいになっちゃってる気がするな……。


 私がそんなアイドルの追っかけみたいなことをしてるのが、ある日エリーにもバレちゃったんだけど。

 それ以降はエリーも、私と一緒に試合の会場に行くのに付き合ってくれたりしたからさ。


 なんか申し訳ないのと、あとはエリーとお出かけできるのが嬉しいのもあって、毎回スイーツをご馳走したりしたんだけど。


 まさか意図せず、そんな甘味たちが賄賂になってくれていたのか。

 私のストーキングみたいな行為がアリサにチクられちゃうこともなく、エリーは義理堅くも二人だけの秘密にしてくれてるみたいだった。


 エリーったら相変わらず良い子すぎる。なんでも好きなもの奢ってあげたいよぅ。


 アリサは人気者だったから、試合の会場にはアリサの友だちもよく来ているみたいだったし。

 そんな子たちにもバレないように本当に影の方に隠れながら、私は幼なじみの活躍を密かに応援しつづけた。


 目にするたびに成長していて、日に日に綺麗でカッコよくなっていくアリサの姿は……私にはとても眩しく見えた。


 観客席には女の子だけじゃなく、男子が一緒に混じってアリサを応援していることが何度もあって。

 たぶん、きっと……私の想像してる分じゃ全然足りないくらい、アリサは男の子からモテたりしてるんだろうと思う。


 みんなの応援を浴びながらも活躍しているアリサにたいして、こんな人知れずコッソリ隠れてるような私なんかじゃ、こんな思いを向けることすらも分不相応なのかもしれないけれど……。


 これからもアリサの素敵なところをたくさん発揮して、いろんな世界でいっぱい活躍して。

 そして、もっとたくさんの人から応援されて、みんなから愛されながら。


 だれよりも幸せに過ごしていってくれればいいなって、そんなことを願ったのだった。

 

◇◇◇

 

 中学三年生になって、気づいたら春が終わって夏を迎えていた。


 夏休みといえども、私にダラダラ休んでいる暇などは当然なくて。

 一年後に受験した学校で笑いながら夏を過ごせるように、来年こそは何の憂いもなく夏休みをダラダラと過ごせるように。


 志望校もしっかり定まっていないながらも、日夜勉強に励んだり、ちょっと多めの息抜きをしながら過ごしていた。


 夏の終わりには、アリサのバスケットボール部での最後の試合があったりして。

 一年生のときからずっと変わらず、こりずに陰ながら応援に行くなんてイベントが、胸を張って自慢できる今年の夏の唯一のイベントだったのかもしれない。


 隣の県で行われた全中の二回戦で、アリサたちは惜しくも負けちゃって。

 ほかの部員たちを慰めながらも、みんなに隠れてコッソリと泣いていたアリサの姿を見てしまって、私もだいぶ込み上げるものがあった。


 毎日のように朝練があったり、放課後だって遅くまで練習してたり、休日だって休むことなく部活に行ってるとエリーが教えてくれたし。

 そんなアリサの努力し続けた三年間は、きっと私の感動なんかじゃ全く足りてなくて烏滸がましいほどに、尊くてかけがえのない時間だったのだろう。


 ずっと頑張って、三年間の部活をやり遂げたアリサに元気をもらったりもしながら、私も気合を入れて受験勉強に励んだ。


 お母さんはわりと私の成績にも進路にも執着はないらしく、雪が行きたい高校をどこでも選びなって言ってくれたけども。

 その『行きたい高校』ってのを探すのが、私にとってはぶっちゃけ目下最大の悩みだった。


 高校でやりたいこともないし、正直ぜんぜん希望なんてなかったし。

 強いていうなら、ずいぶん前にエリーに言われた『男子と喋らんといて』っていうお願いを今でも実直に守ろうとは心掛けてたし、とりあえず女子校にでもしておくかってくらいかな。


 まぁそもそもエリーですら、『そんなこと言ったっけ?』って忘れてるのかもしれないけれど……。

 それでも、可愛いかわいいエリーから一度でもお願いされたとあったら、私にとっちゃ何よりも優先すべきことだし。


 そんなこんなで私の成績でも行けそうな女子校を、どっか適当に見繕うかと進路が少しずつ決まりかけていた頃。

 夏休みも終わった九月のとある放課後に、家の前で偶然お顔を合わせたアリサと、ほんの少しだけ進路の話を交わしたのだった。

 

◇◇◇

 

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