第五話 雪のご

 

◇◇◇

 

 中学校に入学してからすぐ、アリサはバスケットボール部に入部した。


 身長も高いし、同じ小学校の子たちが運動も得意なことを話したのを耳にしたこともあるし。

 それが人づてに伝わったりしたのかも知れないけど、いくつかの部活から勧誘をもらったらしい。


 小学校の六年間は同じクラスで過ごすことができたものの。

 流石に中学校ではクラスが離れてしまったから、またまた一気にアリサと話す機会は少なくなっちゃったんだけど、それもまぁ仕方ないことなんだろう。


 でも、たまたま帰りの時間が重なったタイミング……というか、私はいつも帰りのホームルームが終わり次第すぐに帰るんだけど。

 ある日もサッサと帰宅しようと通学路を歩いていたら、後ろから走ってきたアリサと偶然にも帰宅が重なって、そのまま一緒に帰ることになって。


 その時にアリサから、バスケットボール部に興味があるけど、他の部活にも誘われてるから正直迷っているという相談を受けたことがあった。


「アリサが興味ある部活が一番楽しめるんじゃないかな」


「雪がそう言うんなら、やっぱりバスケ部にしようかな。それでさ、あの……雪もバスケ部とか、一緒に……」


「私は家庭科部に入るつもりだから、お互いがんばろうね」


「あっ、そうなんだ……」


 もしかしたら私の言葉も、ほんの少しくらいはアリサの背中を押すことができたのか。

 アリサも迷っていた部活の選択を、納得しながら決められたように見えたから良かったよ。


「アリサだったらきっとたくさん活躍できるね。応援してるから、バスケットボール頑張ってね」


「う、うん!」


 お互いの家の前について、別れ際に激励の言葉を送ったらすごい意気込んでいるようだったし。

 他の部活から勧誘されたことを気にしつつも、やっぱりバスケットボール部に入りたかったのかもしれない。


 ほかのクラスでもバスケットボール部でも、アリサはどんどん成長していって、たくさんの人に囲まれるような女の子になるんだろうな。

 大切な幼なじみの新たな門出を嬉しく思いながら、私も久々にアリサと話せた短い時間を胸にしまって、自宅の玄関に入っていったのだった。

 

◇◇◇

 

 予想というか、期待というか。

 私が想像していた通りに、アリサは中学生になってもいっぱい活躍しているようだった。


 テストの成績もいいし、バスケットボールだって中学から始めたのに上手らしいし。

 自分からアリサのことを聞きまわらずとも、クラスの子たちがよく話しているなかでアリサの名前が出てきて、そんな自然と耳に入ってくる噂話だけでもアリサの活躍を知ることができた。


 一方で私のほうは、そんな幼なじみとしては鼻が高くなっちゃうアリサと比べて、ぜんぜん普通にノンビリと日々を過ごしていて。


 他の学校出身の子だってたくさんいるとはいえ、小学校のときの人間関係の一切がなくなるわけではなかったし。

 用事があったらときどきお話するくらいの、少しだけ仲良くなれたかもしれないような子が何人かいるかなってくらいで、アリサみたいにたくさんの人に囲まれて賑やかだったりなんてのは程遠かった。


 それに、入学してひと月が経ったくらいのとき。


 私に彼氏ができたとかって何でか勘違いしちゃったのか、エリーがそんなことを聞きにきたことがあって。

 その末に男子とも話さないでってお願いされちゃったから、それ以降は男の子ともなるべく話さないようには気をつけてるし。


 そんな心配しなくても、そもそも私が男の子に興味を持たれること自体がないのにね。

 そうだとしても、まぁエリーからお願いされちゃったら、そりゃその通りにするのなんか当たり前だし。


 たぶんの予想で……でもきっとこの予想は当たってるんだと思うんだけど。

 前に家庭科部に入るってエリーに話したとき、『部活でお菓子つくったらエリーにあげるね』って言ったらすごい喜んでたからさ。


 私にお付き合いしてる人でも出来ようもんなら、きっとお菓子作りをサボるんじゃないかと心配だったんだろうな。

 お菓子でそんな喜ぶなんて……エリーもまだまだ子どもっぽくて可愛いとこがあるもんだよね。


 アリサだけじゃなく、まだ小学五年生のエリーにすらとっくに身長を追い越されちゃってはいるわけだけど。

 それでも、こういう可愛い部分もまだ残っていてくれるんなら、私もまだもうちょっとはお姉さんぶれそうだし嬉しいもんだよ。


 お隣さんの大切な幼なじみ二人ともに、そんな一気に遠い人になられちゃっても寂しいもんね。


 私が中学生になったあとでも、まだ変わらずに構ってくれているエリーの優しいお気遣いに感謝をしつつ。

 日常の中にしきりに混ざってくるアリサの活躍を心の中でひとり喜んだりしながら。


 私の中学生活は、エリーが勘違いしちゃったような波も立つことなく、穏やかに過ぎていったのだった。

 

◇◇◇

 

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