第三話 雪のさん
◇◇◇
女子たちの中で蔓延したアリサをハブろうとする兆候に気付いたのは、普段は私になんてあまり声を掛けてはこないはずのクラスメイトから、遊びの誘いがあったことがキッカケだった。
有り体には言わずとも、アリサを孤立させたかろう気配が隠し切れてなくて。
さらには周りの子も私を説得させたいかのようにフォローしてきた雰囲気から、個人的に嫌いだどうこうの話じゃないんだと察することができた。
もうずっとアリサとだけ仲を深めていた私にとっては、よその子同士で勝手にやっててくれる分には関わろうとはしなかったわけだけど。
そのくだらない流行りごとを止めようともしなかったが故に、無関係でいようとした私たちまで巻き込まれることになってしまったわけである。
何とか私を引き込もう……というか私なんぞにはきっと特に興味もなく、おそらくどうしてもアリサをひとりぼっちにさせたいがためだろうけれど。
目的のために私を説得させようとクラスメイトが口にした、『いつまでも二人だけでいるの良くないよ』という言葉だけは、確かに納得せざるを得なかった。
私はともかくとして、アリサはもっと沢山の子たちと仲を深めても良いと思っていたし。
これから中学生とか高校生とかになっていって、知らない人たちと関わりを持つ機会もどんどん増えていくはずだもんね。
アリサは周りからチヤホヤされる部分はたくさんあるのに、今のまま私とだけ関係を深め続けるのも、それは勿体無い気もするから。
少女漫画を読んで世間を知った気になったのか、アリサをそんな漫画のヒロインに投影でもしていたのか。
はたまた保護者面が抜けなくて、これから活躍していけるアリサの未来でも身勝手に嘆いてしまったのか。
最近知った『依存』という言葉を、ネガティブな意味で捉えていたがためにアリサに当てはめることはせずとも、『自分がアリサに依存してしまっているのでは』などと、気取って拗らせながら思いはじめていたこともあり。
おっしゃる通りである気もするなと、そう考えながらも当然アリサをハブることに加担などはするはずもなく。
そのあともアリサをハブろうという風潮が陰ながら蔓延る教室で、私もついでにハブられながらも、別にそれまでと変わることない生活を悠々と過ごしていたのも束の間。
女子の気分の移り変わりなどは早いもので、次のイジメのターゲットがアリサから私に定まったようなのだった。
◇◇◇
入学してからずっと、周りの子を警戒したり怖がったりしていたようだけど。
日本での学校生活に慣れてきた最近では、まさにその反動なのか、アリサはどこか悪意に鈍感なところがあって。
たぶんアリサだけが唯一、クラスに広がった陰湿なイジメには気付かないまま過ごしていたんだろう。
だから私をハブろうとする空気感にも気付くことはないまま。
されどもクラスの子たちから初めて遊びに誘えわれたと嬉しそうに報告してきたのは、きっと陰で流行っていたイジメになんか気付いていないことの証明なんじゃないかなと思う。
その報告のおかげで察しがついた私は、ネガティブな感情よりかはどちらかというと前向きな思惑の方が勝っていた。
私がアリサを独り占めし続けているような状況から、いわば子離れするための良い機会かもしれないし。
なにより、私なんぞと以外にもしっかり関係を築いて、アリサの価値観とかコミュニケーション能力が培われるキッカケでもあるかもしれない。
だからこそ、アリサがより幸せで楽しい生活を送っていけるように、たくさんの成長の機会を得られるために、私がその邪魔をしちゃいけんだろと思うのも当然のことで。
それからは何かに理由をつけて、アリサには勘付かれないように自らハブになるという努力を重ねていった。
きっと私に来られても微妙な雰囲気になるだろうから、アリサが声をかけられた遊びの誘いには、適当な理由をつけて私は行けないことを示した上で。
『みんなとたくさん仲良くなっといで』と何様だって感じの保護者目線で、アリサが楽しい時間を過ごせていることを願いながら背中を押して送り出した。
あんまり不自然な理由で断り続けているのもなと悩んだ末に、便利な理由として習い事が口実になるじゃんと思い浮かんだから。
習い事を始めたって理由を駆使し始めようと思った矢先、アリサが『あたしも同じとこ通う!』だなどと言ってきたのは困っちゃったけども。
そんな返しは想像できていなかった……困っちゃうからやめてよぅ。
ひとり悪戦苦闘しながらも、アリサに悟られることなく、のらりくらりと避け続けながら。
家に帰ったらありがたいことにエリーが私に構ってくれたので、勉強を教えてあげたり……したかったけどエリーも勉強できるんだもん。
お姉さんぶりたかったのに、すでに手の掛からない子になっちゃってるエリーにむしろ構っていただいたりと、そんな時間が増えていって。
それでもお隣さんということもあるし、その頃にはまだアリサとの時間が全くなくなるってこともなく。
だれと何をして遊んだというお話を聞いて、『今日もアリサが楽しそうでよかったよ』とか思っていたわけだけど……。
そんな時間すらもなくなるキッカケとなったのが、六年生の移動教室だった。
ホテルの部屋割りはくじ引きで、アリサと別の部屋になったのも今の状況的には良かったのか。
でもせっかくのイベントなのに、部屋が離れちゃったのが個人的には残念だったりと、内心ではちょいと複雑ではあったけども。
修学旅行から帰ってきた日にアリサが語ってくれた思い出話で、家が隣同士で夜に遊んだりしてることを、ホテルでの夜咄で何気なく話したらしく。
それを聞いた私としては、『あっ、しまったな……』とか思っちゃったよもんだよ。
私をハブるのがうまくいってると思ってる女子たちにとって、実はアリサと仲良くしてますなんてのは気分良くないだろうし。
それでまたアリサがハブられようもんなら、せっかくアリサが築くことのできた関係がおじゃんになっちゃうかもじゃん。じゃんじゃん。
とはいえ『そもそも私のハブの期間ながくね?』とか思って、もしかしたら前からみんなに嫌われてたんじゃとちょっと傷付きつつ。
でも最近は自分からあえて孤立していってるくらいだし、実はとっくに誰かをハブる流行なんぞ過ぎ去っていたのかもしれないんだけども。
イジメ期間終了のアナウンスなんて知らせてくれることもないために、私はそのまま今の生活を続ける方針を心の中で決定しながら。
用心のために、アリサのこれまでの時間を台無しにしちゃわないために……。
学校外の時間であっても、アリサと過ごす時間を少しずつ減らしていこと決意しながら、
寂しさを我慢しつつも、泣く泣くアリサからのお誘いをやんわり断り続けたのだった……うぅ、寂しいよぅ。
◇◇◇
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