第5話

十二月も中旬になり、あきらは友美とサークルで会うことはあった。


友美は相変わらず優しくあきらに英語の指導をしてくれていたが、友美から正式な返事をもらっていないと考えていたあきらとしては、友達以上恋人未満のようなあやふやな状態に、焦りを感じていた。


そしてあきらは、友美からはっきりとした返事を貰いたいと思い、クリスマス・イブにディナーに誘おうと、サークルの終わった帰りに友美を呼び止め、興奮した口調で言ってしまった。


「友美先輩、来週のクリスマス・イブ、何かご予定ありますか? 以前、帝国ホテルでクリスマディナーのカップラーメン、一緒に食べる約束したこと覚えていますか?あの時の返事も貰っていませんし、もしよければ自分とお願いします!」


と、友美はびっくりしたような表情をしていたが、すぐに笑って、

「そうだったわね、あきらくん。」

「あの時、『少し時間を下さい』って言ってたのに、どうして、今まで返事してくれないのですか?」


「ごめんなさいね~、長くかかってしまって。それでは、来週のクリスマス・イブは、あなたと一緒に食べに行きましょうね。」

と、言って了解してくれた。


あきらは、落ち着きを取り戻し、

「すいません、つい興奮してしまって、まだまだ半人前ですよね。」

「そんなことないのよ。今まで伸ばしてきた私が悪いのだから。」


「自分のために時間を作ってくれるなんて、ありがとうございます。」

「いいのよ、大丈夫よ。」

あきらは、来週のクリスマス・イブには、友美から色良い返事が貰えるとウキウキしていた。


そして当日、あきらは、今夜は正攻法で臨むことに決めていた。


あきらは、流行りのダウンジャケットに、白のカッターシャツに紺のブレザー、薄いブルージーンズ姿で、待ち合わせしていた友美のアパートの最寄り駅まで迎えに行くと、駅の改札口には、既に友美が白に黒の水玉模様のワンピースにべージュ色のコートを着て立っていた。


「友美先輩、メリークリスマス!」

と言って、小さなバラの花を一本手渡した。友美は、満面の笑顔で、

「さあ、行きましょうか?」

「は~い。」

と、言って、二人はサークルの話など、あたりさわりのない話をしながら、帝国ホテルに向かった。


あきらは笑顔でいたが、心の中では緊張でいっぱいだった。レストランは予約してあったので、すぐに座われた。

カップラーメンはさすがに無理だったので、クリスマス特別コースを食べながら二人で楽しく話していた。


あきらは友美に改めて告白するタイミングを狙っていたが、なかなかチャンスが来なかった。


そうこうしているうちに時間が経ち、食事も終わり二人は帝国ホテルを出て、電車で友美のアパートの最寄り駅に戻り、友美のアパートの門まで歩いて来た。


「今日は、ごちそう様でした、楽しかったわ。」

「喜んでもらえたらなら幸いです。今夜の友美先輩は、すごく綺麗でしたよ。」

「ありがとう。ほんとにそうなら嬉しいわ。それで、こないだのお返事だけど・・・。」


「ちょっと待って下さい!」

そこで、あきらは友美が話し出そうとするのを遮り、意を決っして、三ヶ月ぶり二度目の告白したのです。


「友美先輩、俺、本当に友美先輩のことが好きなんです!」

「二度目になりますけど、俺と付き合ってくれませんか?」


友美は黙って、しばらくの間あきらの顔をじっとみつめていたが、事前にしたためておいた手紙をバックからゆっくり取り出し、

「後で読んでね。」

と言って、あきらに手渡した。


 あきらは、帰りの電車の中で、その手紙を開けた。


「 あきらくんへ、 

 

 今日のクリスマスディナーありがとう、楽しかったです。本当はあきらくんに直接話さなくちゃいけないんだけど、面と向かったらうまく話せないと思うので、この手紙に私の気持ちをしたためます。


 あきらくん、私はあなたのことが、あなたが四月にサークルに入会してきた時から好きでした。最初は、あなたの素朴な温かさに好意を持ちました、けれども、あきらくんはサークルの一年女子の間でも人気があったし、先輩という立場が気になり迷っていました。


 そして、あきらくんは、私に関心がある訳ではないように思えたのです。そんな時です、高橋君に告白されたのは・・・。


 でも、私の気持ちは揺れていました。高橋君は『いいよ』って言ってくれたけど、申し訳なくて九月に一回お別れしました。


あきらくんはその頃、新宿の住友三角ビルのレストランで食事した帰りに、私に告白してくれましたね、嬉しかったけど、あきらくんが本当に私のことが好きなのかどうか確信が持てなかったのです。


あなたは私が好きだと言ってくれたけど、他の女の子とも付き合っているという噂も聞きました。

とても悩みました。


 でも、自分の気持ちを何度か意思表示したつもりでしたが、はっきりとした言葉で気持ちを伝えることができない私の性格もあって、あなたは、そうとは受け取っていなかったのですね。

ごめんなさいね、そのことで、あなたをイライラさせてしまったようで・・・。


 また、あなたが一年生だと言うことも、将来の考え方にすれ違いを感じました。


 高橋くんは、そんな自分勝手な私を、ずっとただ黙って見守ってくれていました。


そして、先週彼にプロポーズされ、私は、お受けしました。


 私は、高橋君に委ねたいと思います。


 あきらくん、申し訳ないけど、私はあなたとお付き合いすることはできません。


 私はもう直ぐ三年生になるから、将来のことを考え始めています。


あなたは、まだまだ毎日毎日を楽しんでいていいと思います。


 あなたにも運命の人が現れるのを祈っています、ありがとう。

          友 美 よ り 亅                                    


 あきらは頭のなかが真っ白になって、どうやってそのあと、自分のアパートに一人で帰ったのか、覚えていなかった。


 高橋先輩は、あきらが尊敬していた先輩だったので、あきらにとっては二重のショックだった。


 そして、二月の後期試験も終わり春休みに入ってしばらくしてから、あきらは全てをきっぱり忘れるため、サークルに退部届を出したのであった。

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