第3話
ダンスパーティーの帰り道、あきらと隆史は二人で、喫茶店での男だけの『だべり』 を始めた。
場所は駅前のアマンドで、これが、記念すべき第一回目の反省会となった。
「ところでよー、俺も香織ちゃんから携帯番号教えてもらったけど、お前も知美ちゃんから早速教えてもらうなんて、お互いさい先いいやん! あの娘たち二人とも、良い娘だよ。俺に感謝しろよー(笑)。」
「ああ、ありがとう。先週、サークルの友美先輩に告白してうまく行かなかったショックがまだ尾を引いてるけど、何だか立ち直れそうな気になってきたよ。」
「そうか、そりゃ良かった。じゃー今度は俺のために一肌脱いでくれんか?」
「一肌脱ぐって、香織ちゃんのことが気に入ったんか?」
「うん、付き合ってみたいんだ。」
「大人しそうな娘だけど、隆史にはお似合いだと思うよ。それで、どうすればいいんだ?」
「実は、香織ちゃんとチーク踊った時、来週、今度は一ツ橋女子短大との四対四の合コン申し込んどいたから、お前も必ず来いよ! 向こうは、今夜一緒だった香織ちゃんに知美ちゃんに、他に女の娘二人を予定。」
「こっちは、俺とお前に、スキー部の酔っ払い一年生部員、他に野郎を一人適当に見繕っておくからよ。コンパの場所と時間はお前と知美ちゃんの二人で話し合って決めておいてくれ。」
その日の夜になって、あきらは合コンの話を進めるため、ダンスパーティーで知り合った知美にLINEで電話を掛けた。あきらは、うまく行かないのではないかと不安にかられながらも電話をかけると、幸いにも彼女の明るい声が聞こえてきた。
「は~い、あきらさん、待ってたわよ!」
「ごめんね、なかなか勇気がなくてさ。ところで、香織ちゃんから話は聞いてる?」
「ええ、聞いてるわよ。今度の土曜日ね、どこにする?」
「ほんとにいいのかな?」
「当たり前じゃない! もう皆とも話ししてあるんだから・・・。」
「申し訳ない。それじゃあ、ありきたりだけど、渋谷にしようか? 夕方六時にモアイ像の前で集合でいいかな?」
「うん、夕方六時、渋谷・モアイ像前ね、みんなに連絡しておくね。」
と言って、電話を切った。
そして、土曜日になり、あきら達は総勢男女八名で渋谷・モアイ像前に集まり、センター街を抜けて、スペイン通りにある洒落れたカフェ・バーに入った。
店に入ると、店内にはジャズミュージックが静かに流れており、一行は八人がけのテーブル席に男女交互に座った。
男性陣は、あきら、隆史、前回酔っ払っていた川相君、もう一人は同じスキー部一年の八重樫君。女性陣は、知美に香織、それに美雪に久美子の四人だった。
席について、まず始めに切り出したのは川相君であった。
「どうもー! 昭和工業大スキー部一年の川相です。先週は醜態を曝してしまって、どうもすいませんでした。」
「名誉挽回のため、今日は進行役を勤めさせて頂きます。よろしくお願いします。では、まずはじめに全員でカンパーイします。」
と言うと、お互いそれぞれ、代わる代わるグラスを合わせ、お互い緊張する中、合コンがスタートしたのであった。
しばらくの間、それぞれ別々に雑談していたが、三十分くらいして進行役の川相君が言い出した。
「そろそろうちとけて来たところでしょうから、ここで合コン恒例の『あーんちてゲーム』をしまーす。」
「男女二人づつでカップル四チームに分かれて、八つの小皿に盛られたパスタ(ナポリタン)を一皿づつ交互に全部食べ切るゲームです。」
「男性は食べる時は目隠しして両腕を後ろで組み、女性が『あーんちて』と言ったら、男性は『あーん』と言って食べさせてもらうのです。」
「一つだけタバスコをいっぱい入れたパスタ(ナポリタン)がありますが、どの皿に入っているかは、進行役の私しか分かりません。次ぎに食べるチームの男性が皿をシャッフルしたら、食べさせる皿をパートナーの女性が選びます。」
「口移しで食べさせてもかまいませんよー(笑)。亅
「男性が辛いとギブアップしたチームから順次脱落です。脱落したチームが出た時点でその皿を片付け、残った皿にタバスコ入りの皿を一つ新たに追加して行きます。」
「水はたくさん用意してありますので、遠慮せず、どんどん食べて下さい。なお、チーム編成は、進行役の私が勝手に決めさせて頂きます。」
「川相・久美子組、隆史・香織組、あきら・知美組、それに八重樫・美雪組とします。それでは、始めます。」
まず、隆史が小皿をシャッフルしてから、久美子ちゃんが一枚小皿を選んで手に取り、川相君に、
「はーい、あーんちて」
と恥ずかしそうに言って、目を閉じてあんぐり口を開けた川相君の口元にパスタを運んで食べさせた。
すると川相君は反対に照れもせず、
「おいちぃ、久美子たん。」
と、言って目を開け、セーフのポーズで両手を横に広げた。
その情景を見ていたみんなは、もうゲラゲラ大笑いしていた。
今度は、あきらが残り七枚の小皿をシャッフルし、香織ちゃんがその中から一枚小皿を選んで手に取り、
「はーい、あーんちて」
と言って、隆史に食べさせた。
これもセーフでした。
そうやって、同じように、あきらにも八重樫君にも順次繰り返し、みんな、わー・きゃー大騒ぎしながら、ゲームが進んで行った。あきらの番になった時、知美に食べさせてもらったのだが、ここでも、目を閉じると、友美先輩のことが頭を過ぎってしまった。
六月に、英会話サークルで千葉県の大原にあるペンションへ二泊三日の合宿に行くことがあった。その二日目の夜は、ペンションの直ぐ目の前にある砂浜の海岸で午後八時頃からみんなで花火大会(大会と言うよりは花火遊びと言った方が適切)をやることになっていた。
あきらは、一日目の夜の大宴会でアルコールを飲み過ぎて、その日の昼過ぎに目を覚ましたものの、日中は二日酔いで頭がガンガンしていた。それで、早めに夕食を済ませて、頭をスッキリさせようと、まだ誰も来ていない海岸に一人で出て、月明かりのなか、夜の涼しい海風にしばらく当たっていた。
気分が悪かったのも治まり、あきらが砂の上に腰を下ろしてくつろいでいると、後ろから高橋先輩がやって来た。
「二日酔いはもう治まったみたいだね、顔色良くなってるよ。」
「すいません、夕べ完全に酔ってダウンしてた自分を、高橋先輩が部屋まで運んでくれたそうですね。どうもありがとうございます。」
「いや、そのくらい何でもないよ。それより、俺と一緒に流木拾いをやってくれんか?枯れ木もあったら拾っておいてくれ。」
「先輩、キャンプ・ファイアーでもやるんですか?」
「その通り、みんなで焚き木を囲んで、花火大会をやるんだよ。火をつけるための紙にダンボール、ライターは用意してあるんだ。」
「了解しました。そこらじゅうから、流木集めて来まーす。」
やがて、サークルのみんなが海岸の砂浜に集まってきた。
高橋先輩とあきらは波打ち際から三十メートル位のところに浅い穴を掘り、そこに集めてきた流木や枯れ木等を敷き詰め、即席のキャンプ・ファイアーを始めた。
その火の回りでは、四~五人の小グループがいくつもできて、それぞれ、線香花火を楽しむ者や、ロケット花火を打ち上げて騒ぎ出す者、ねずみ花火で駆け回る者やらで、さまざまだった。
あきらは、線香花火をやっているグループに加わった。
そのなかには友美先輩もいて、静かに、パチパチとまーるく広がる線香花火の明かりが友美の瞳のなかに反射して輝き、あきらには、白いノースリーブのワンピースを着た友美の綺麗な顔立ちがいっそう綺麗に見えていたのだった。
「あきら君、サイダー飲む?」
と言って、傍らにあったクーラーボックスの中から、友美があきらにラムネのビンを一本取り出し、差し出してくれた。
「すいません、夕べ呑み過ぎてたみたいで、助かります。今夜は波も穏やかで、夜風も涼しくて、気持ちいいですね。それに、星空も最高です!」
「沖縄の夜空は、もっと星がいっぱいあって、本当に綺麗なんでしょううね。」
「うん、南十字星も日本で唯一見ることが出来ますし、空気がきれいなもんだから、星と月明かりだけなのに、全然暗くはないんですよ。」
「この時期になると、毎週と言う訳ではないですけど、土日は昼間から海岸に家族や友人同士で集まって、水着姿のままバーベーキューでビーチパーティーやるのが一般的なんです。地元では、親に連れられて、みんな子供の頃から経験するんですよー。」
「そうなの? 週末の昼間はビーチパーティーって、ステキね。」
そう話しながら、二人で南の夜空を眺めていると、偶然、流れ星が見えた。
「あきら君、今の見た?」
「見ましたよ。流れ星が流れて行きましたね!」
「願い事したー?」
「それが予想もしてなかったもんで、うっかりしてました。」
「ダメねー。」
「友美先輩は、何か願い事したんですかー?」
「それはヒ・ミ・ツ! でも、次また流れ星がでたら、あきら君の分まで、お願いしとくね。」
友美の長いストレートの髪が夜風に揺れて、甘酸っぱい香水の香りが、あきらをさらに魅惑していた。
タバスコ入りのパスタは一巡して、二人目の隆史で大当たり、最初彼は、辛いのを我慢して平気な顔で知らんぷりしてパスタを食べていた。
全部食べ切ったところで、ついに、コップの水をがぶ飲みし始めたのであった。
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