ラバの森-中-

 エルドは森に入っていくと「おい、迅鬼。お前いつの間に産卵機能身につけたんだ?」と言うと、森の隅から大量の迅鬼が出てきた。


「けっへっへ…バレちまったか。」


「やはりな、勇者達がまた油断した隙に攻撃するつもりだろう?」


「そうだよ」


「ふぅ…今やるか」


「あ?お前一人で約1万体の迅鬼に勝てるとでも思ってんのか?」


「あぁ…おそらくお前は俺のことを知らないが、あの勇者のチームで満という人物を除いて最強という自信があるぞ」


「そうかい…そうかい…ケヘッじゃあ殺ってやるよ」


 そう言った瞬間1万もの迅鬼はエルドを囲み竜巻のようなものを形成した。そのスピードは音速という領域を遥かに超えており、光速の域にまで到達していた。

 ただエルドから見ると、スローモーションのように見えたため容易に一匹、二匹、三匹、と殺していった。

 指揮官はその竜巻の異変に気付き、「お、おい!あれは何だ!?」と大声で竜巻を指さした。


 エルドその竜巻の内部で淡々と迅鬼を瞬殺していき、迅鬼側も焦っていった。

 エルドは「あのなぁ…俺は魔皇より強い自信があるぞ?」と言うと、迅鬼が「何故お前はそんなに強い!」と聞いた。

 すると、エルドは「満のおかげだ」と即答した。


「くそっくそっなんで負けるんだ!?」


「よし、じゃあ一気に片付けるか」


 そうエルドが行った瞬間迅鬼でも認識できないスピードで、迅鬼を殺していった。

 そのスピードは凄まじく1秒未満の時間で迅鬼を全員滅ぼした。


 エルドが迅鬼を滅ぼした後に竜巻が消えたことを認識した指揮官や他の勇者が、エルドの方に来た。

 迅鬼の返り血で血まみれになったエルドを見て、指揮官が「大丈夫だったか?」と聞くとエルドは少し小さな声で「怒られるかもしれませんが、私は皆様に被害が及ばないようにトイレに行くという嘘を言い迅鬼と戦いました」と言った。


「自分勝手な行動はするんじゃない!」


 そう指揮官が大声で叱る。


「いえ、けれども迅鬼と一緒に戦闘をする場合勇者側はもしかすると全滅するかもしれないので……」


「それも一利あるが、嘘をつくというのは俺等を信用していないというのと同義だぞ!?」


「言いにくいのですが、ほんとのことを言うと満以外はあなた達を信用していません。途中で裏切られる可能性も捨てられないのです。ただ自分自身に与えられた勇者という職業、称号を全うするために迅鬼を殺しました」


 そう指揮官とエルドの対話に割り込んで剣聖が「おいおい、そもそも迅鬼は倒したはずだぞ?」と言った。

 エルドはそれに丁寧に「私の国に迅鬼に関する書物があるまして、そこに"迅鬼は速度特化型で防御力や攻撃力が低い為個人による産卵をする"と書かれておりまして、そのときはまだ半信半疑だったのですが…今回の迅鬼に襲われるときで一回目の攻撃と二回目の攻撃を行っている個体が若干違ったんですよ。そこで確信しました」と答えた。

 周囲一同は「へぇ」という声もあったが、そこで「では、みんなが怪我をすることになったあの攻撃も防げたのですか?」と聞く勇者がいた。


「はい…一応そうなりますね」


「これは、非常に酷いことですね。んだねぇ……これってぇ皆を救う気持ちがないってことですかぁ?」


 そう感じ悪く聞いた勇者にエルドは少し困惑しながらも「勇者なので自分自身で身を守ってください。私はあくまで敵を倒せるように敵の情報を確定させ、敵を倒しただけです。貴方達も魔皇を倒すのだったら自分自身の身をで守ったらどうですか?あと、私に貴方達を守る義務はありません」というどが3つもつきそうなど正論をぶちかまし、感じ悪い勇者は「うぅ…」と言った。

 これほどまでに清々しいものは無いだろう。


 そんなこんなでラバの森を探索していき、ラバの森の脱出ができそうになり、どんどん探索していってラバの森を脱出できた。


「よっしゃぁぁぁぁぁ」


 そう勇者が言った瞬間にラバの森のどこかへと転送されてしまった。

 いや、転送ではなくもしかすると脱出できるという幻想を見せられていただけなのかもしれない。

 そんなことはどうでもよく、このような転送もしくは幻想、幻覚を見せられないようにする方法はどこにあるのか皆で話し合うことになった。


「うーん、転送ならこのラバの森全体に組み込まれている魔導回路を破壊しなければならないし、幻覚なら幻覚をかけている生物を特定してそいつを倒さないといけないなぁ」


 そう指揮官が言うと一人の勇者が「魔導回路ってどこにあるんですか?」と聞いた。

 指揮官は「今から教える」と言い、教え始めた。


「これは、魔導回路を破壊するんじゃなくて、魔導回路からの信号を受け取った魔導具を破壊するのを方が近いのかな?その魔導具には、その魔導回路を発動するために自動的に魔導具は必要な魔力を自然発生した魔力から吸い出すんだけど、その魔力の吸い出しの際に魔力の流れが魔導具を中心に変わるから、そこから特定するっていうやり方だね」

 そう丁寧に教えてくれた後に「よし、じゃあ一旦魔力の流れが変わっている場所が出てくるまで歩くか。」と言い、適当にそこら辺を歩き始めた。

 一人の勇者が「道のするしって書きますか?」と聞くと、指揮官は「いやぁいいよ。逆に困惑すると思うし」と手を横に振りながら答えた。

 魔力の流れが変わる位置まで当てずっぽうで歩いているとだんだんと夜になってきて、22:00になったので一旦寝ることにした。


「おい、ここの木を切り倒してテント張るぞ。一応見張ると……中村健!防御結界作れるか?持続時間が長いやつ」


「はい!一応可能です。」


「よし、じゃあやってくれ」


 その後色々とテントを作り、見張りの順番も決め─満や武、エルド、剣聖など今日活躍した人は見張りから外された─、安心して就寝した。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「うわぁ…また夢の中かよ。あのバァさんがまた出るのかな」


 そう満が夢の中で呟くと、「あぁそうだよ。出てこなかったほうがよかったかい?」と返答が返ってきて、その方向を見るとまたあのばぁさんがいた。

 今日は何やらされるのかなと思うと、ばぁさんが一つの上部に穴が空いた箱を出してきた。


「このBOXの中にたくさんの紙が入ってるから一つ取りな」


 そうばぁさんがぽんぽんと箱を叩いた為、その箱に近づき、穴に手を突っ込んだ。


ゴソゴソ


 そう何も聞こえない夢領域に音が広がる。そして満は「これだッ!」と決め一つの紙を取った。


「うぅ〜んとね…そ、れは……どんまいだねぇ」


「え?」


「それ、最高難易度の紙だよ」


「え?」


「絶対無限を超えた先にある究極無限、それを超えろとな」


「え?」


 同じ声の高さ、口調で同じ言葉を三回も発してしまった。

 そして、本題なのだが究極無限という新しい概念に満は疑惑を覚えた。


「なんですか、究極無限って」


「うん…まぁ…簡単に言うなら…人間の言語の全パターンの全体集合という性質を持った無限かねぇ。要するに人間が表せる、表現できる、解説できる概念はすべて究極無限に内包されるということだねぇ」


「は?どうやって超えるん……」


「それを自分で探せって言うんだよ!」


 満は意味が理解できないまま、ばぁさんはどこかに消えた。


「えぇ…」


 そう満は言い、どうやって究極無限を超えるか悩んだ。究極無限、それは人間が使用する全言語の全体集合。実質的にメタ的に絶対無限より上位の無限。そんな究極無限をどうやって超えろと?

 どんな物理学、哲学、数学も等しく究極無限に内包され、これは逆に人間の論理と等しいということがわかる。


 ここで、満は一つのアイディアを出した。それは「人間の論理は言い換えれば、人間の言語の限界地点。つまり人間の言語を超えればいいのでは?」と。まず満はレプリカを用意した。真を語り表現するとそれは究極無限に格納されてしまうからだ。

 満はレプリカとしてまず人間の言語に対するメタ言語を用意した。メタ言語というのは「"リンゴは赤い"は主語+述語からなる文である」という文(言語)を表す文(言語)である。

 これを使用することによって、このメタ言語は独立したメタ言語Aとすることで人間の言語の全パターン自体に対しての言及が可能なのではないか?と考えたのだ。

 ただこれは満が人間の言語の全パターンという幅広い概念の一部しか理解していなかったことによって起きた事故である。

 これは言語の全パターンというのは集合A+Bとしても集合Aとされ、これは極限順序数の不動点に似ている─f(α) = ω^α に対して、ω^α = α を満たす α が不動点である─。

 満はまた考え出した。

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