ラバの森-上-

 馬車は首都アダルンから離れていき草原を駆け抜けた。

 この馬車群は史上最も安全な馬車と言ってもいいほど強い人達が乗っているので、そんなことを知らずに襲いに来た盗賊やら山賊は等しく返り討ちにあった。

 その馬車の中でエルドやリュファスと楽しく話していると、馬車移動のみの一日は終了し、テントを張って寝た。

 その翌日も同じような日を繰り返し、3日ほど過ぎるとラバの森に近づいてきた。


 満は馬車の窓から体を乗り上げ、「あれが馬車か?」と子供のように聞いたりしてワクワクしながら、ラバの森に到着すると思った以上に霧がかっており、流石別名迷いの森と思うほどの霧の量であった。

 ラバの森を見るために馬車から沢山の勇者が出てきて「あれが、ラバの森?」などと話していると、後方にあった馬車の中から指揮官が出てきた。


「せいれーつ!」


 そう言い勇者が指揮官の前で整列をした。そして、指揮官がラバの森を攻略するのに必要なものを言いだした。


「まず、最初に集団行動を必ずすることだ。この列を崩さずにな」


「そして、あとから来るC〜Aの勇者たちがわかりやすいように道しるべを置いていくことだ。木を切り倒していくことも可能だが、倒された木が再生する可能性も否定できないからな」


 そう指揮官が言い終わると勇者達はラバの森へと入っていった。─リュファスは勇者ではないので、待機だそうだ─


 ラバの森の中は流石迷いの森と言うだけのことはあり、集団で移動しなかったらほぼ100%迷子になっているとこだった。

 満は大量に生えている草などをかき分けながら、進んでいくと前方から一つの弓矢が飛んできた。

 咄嗟に武が「伏せろッ!」と言い全員が伏せてけが人はいなかったが、何故か一人の勇者が「ちょっと、おっさん。今のは当たっていても俺等レベルだと無傷だぜ?」と言ってきた。

 ただ、武は過去に自分の力を過信して自分自身を傷つけた過去があるのかな?と思うぐらいの険しい顔で「バカ言っちゃいけない。あの矢に当たって矢放った敵に位置がバレたらどうするんだ?」と言った。

 すると一人のSランク勇者が「弓に頼る程度の敵は私達でも倒せるのでは?」と言うと周りの勇者はそっちに納得したのか「そうだな」と賛成する声が出てきた。


 これは正直言って満からしたらどうでもいい争いなんだが、結構白熱とした口論に発展していった。

 その口論の間に指揮官が割り込み「こんな所でそんな事するんじゃない」と言うと同時に後ろから熊の魔獣が現れ、指揮官の頭を食べようとした。

 その刹那───剣聖が剣を抜刀し熊の魔獣を横に一刀両断したのだ。

 剣聖は血のついた剣の血を振り払い「そんな事で争うんじゃない。油断しているうちに殺られるぞ」と言い、その話は後からになった。

 相当雰囲気が悪い感じでラバの森の中を進んでいった。すると巨大な沼があったのだ。


「うぇきたねぇ」


 そう史上最強のガンナーグロスが言った。

 その次に魔帝中村健が「全員に全身を包むビニール袋のようなものを被せますか?そうすると、汚れずに移動できるので…」と指揮官に向かっていい、指揮官は「あぁそうしてくれ。あと浮遊魔法などもつけれるか?」と聞いた。

 中村健は「はい、では結界魔法を使用し、その結界に浮遊属性を付与致します」と言い、白い球体状の膜のようなものが出現し、浮遊し始めた。

 その浮遊に対応するかのように勇者たちも浮遊を始めたのだ。


 5mほど浮遊して、巨大な沼を見渡すと全体的に巨大ということがわかり円状になっていることがわかった。そして中央部分に小さな島があることもわかったのだ。


「指揮官、あの中央の島に移動しますか?」


「よしじゃあそうしてくれ」


 そう言った瞬間に後方からレーザーのようなものが飛んできて、Sランクの勇者である中村拓海とノイシュ・ヴァルトルートは脳天を貫かれ即死した。

 その事態に気づいた中村健は即座に結界を防御結界を作成し、綺麗な二重結界を作成した。


「クソッSランクの勇者が2人も即死するとは…!相手は、推定上位ドラゴン級か!?」


 そう声を荒げて指揮官が言ったが、中村健の二重結界が強く、相手側も何回もレーザーを打ってきたがびくともしなかった。

 勇者達はひと安心し、沼の中心部にある小さな島へと移動した。

 その時武が「やめろッ」と言いその直後小さな島は飛び上がり、巨大な口の形状になった。

 その飛び上がった口の形をした島は中村健が作った結界にあと少しで届かずに助かった。


「おい!おっちゃん。あんたなんで弓の時とかこんな初見殺しみたいなやつでも危険とわかるんだ?」


 そう高橋直樹が聞くと、「はは…今日の朝スキル[危険察知]を貰ったもんでねぇ」と答えた。満は「やっぱり武が貰ったスキル普通に良いな」と少し呟いた。


 ラバの森の道しるべをつけながら、移動しれいると、まさに魔境のようにあちらそちらで何者かが放ったビームやら弓矢が飛んできたが、武のスキルによってそれら全てを回避した。


「ここでのMVPは武一択やな」


 そのような声も聞こえ始め、武も嬉しそうな顔をしていた。なぜなら彼はいつも褒められるということがない生活を送っており、勇者という重要な役割で人に褒められるという経験が初めてだったからである。

 そんなこんなで様々なことがあったが、ラバの森を抜けられそうになり皆の緊張が失ってきた瞬間に爆発音のような音が後方から聞こえ全員が振り返った瞬間に前方に防御結界を張っていた中村健の左手が吹き飛んだ。


「ウ、ヴバァァッ」


 激しい中村健の断末魔でラバの森全体が包まれた。

 指揮官は「何が起きているッ」と言ったが、他の勇者も一斉に謎の攻撃を食らい断末魔を上げていたため指揮官の声は帳消しにされた。

 その時ガンナーのグロスは全力を振り絞った大声で「伏せろッッッ」と言い、他の勇者が全員伏せたのを確認すると当てずっぽうに周囲をミニガンで撃ち始めた。

 その連射は凄まじく周囲にあった邪魔な木々は全て破壊され、野原となった。


「う、うわぁ…すげぇなぁ」


 そう指揮官が服についた土の汚れをパッパッと落として「もうこんな野原に敵は突っ込んでこないから大丈夫だろう」と言った瞬間に指揮官の顔面を引きちぎろうとする存在がいたので、満がそれを阻止した。

 早すぎて見えなかったそれを阻止するついでに捕獲すると、それはなんと十二階位の魔族の中でトップクラスの素早さを持つ迅鬼じんきという魔族で、異様に長い脚と短い胴体というヘンテコな姿をしていた。


 そんな迅鬼を捕獲した満のもとに剣聖が来て「さすが試験で最高得点を叩き出した怪物だな。十二階位の魔族と同様かそれ以上の強さを持っているとは…私達では歯が立たなかったよ。」と言い、迅鬼の首元に聖剣を突き刺した。

 すると、迅鬼は穴が空いた風船のようにしぼみ始め一つの石となった。


 怪我をした勇者を治療し─最初に中村健を治療して、その後は全体ヒーリングを中村健が使用して治療した─、少し休憩をした。その休憩中の話題の中に「そういえば、なんで武のスキル[危険察知]は発動しなかったんだ?」と一人の勇者が言った。


「いやぁ…スキルが自動的に発動してそれを伝える前にその危険が発動していたものでねぇ…結果的に伝えられなかったんだよ」


 そう武が説明すると、他の勇者も「武に頼りっぱなしはやっぱりだめかぁ」と言い、いい感じの雰囲気の時にエルドが「私少し森の方に入りトイレしてきますね」と言った。

 指揮官は近い場所だと迷わないだろうと思い「行ってきていいぞ」と許可を出した。

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