最終話 言葉が届くとき

夜空には、まばらに星が瞬いていた。美咲は丘の上で、千佳と並んで夜風に吹かれていた。静かに広がる星空は、まるで過去と未来の狭間にいる二人を見守るかのようだった。


「ねえ、千佳」


美咲はそっと口を開く。


「私、ずっと言えなかったことがあるの」


千佳は微笑みながら、美咲の言葉を待っている。


「私は、ずっとあなたと向き合うのが怖かった。過去のことも、今のことも。でも、物語を書きながら気づいたの。私は本当に、大切な人とちゃんと話したいって」


美咲の声は震えていたが、それは恐れではなく、ようやく本当の気持ちを伝えられる安堵の震えだった。


千佳はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「私も同じだよ、美咲」


千佳との再会が、美咲の物語を完成させた。過去のわだかまりが消え去ったわけではない。でも、それを抱えながら進んでいく覚悟が生まれた。


そして、美咲はもう一つ、大切な決断をする。


「私、陽介さんのポッドキャストにメッセージを送ろうと思う」


その夜、美咲は陽介のポッドキャスト宛にメールを送った。


「私は、ずっと物語を書いてきました。でも、それはただの創作じゃなくて、自分自身と向き合う旅だったんです。そしてその旅の中で、私は大切な友人と再び出会いました」


「言葉は、誰かに届くことで意味を持つ。そう教えてくれたのは、陽介さんのポッドキャストでした」


美咲は送信ボタンを押した瞬間、深く息をついた。


翌週、ポッドキャストの最新回が配信された。


「今日は、あるリスナーさんからのメッセージを紹介したいと思います」


美咲はイヤフォンをつけ、ドキドキしながらその声を聴いた。


「言葉は、誰かに届くことで意味を持つ。僕も、そう信じています。だからこそ、僕たちは物語を紡ぐんです」


美咲は静かに涙を流した。


夜空を見上げると、星々が彼女の背中を押すように優しく輝いていた。


「私は、これからも物語を書き続ける」


彼女は、未来へと歩み始めた。

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電波に乗せた思い過去の星が未来を照らす Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter

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