第4話 貧乏貴族の正体?
兵士募集から二日が経過した今、兵士たちは宙賊の船を合計10隻売り飛ばす事に成功していた。
お陰様で我が家の借金は既に1568京9510兆913万リウムにまで減っている。
戦艦バトルギャラクシスを手に入れるまでは1568京9510兆1億リウムの借金があったにもかかわらず、だ。
ビビる程借金減った。
この調子でどんどん軍拡していこう。
「いやおかしいよね!?」
「何がだ?」
キミドリが至近距離で詰めてくる。
「ただの領民が宙賊艦をほいほいと捕まえて来るのがおかしいって言った!」
「領民だがちゃんとした兵士だぞ」
「碌な研修も行ってないのにちゃんとしたもないでしょ……」
「一応操縦の仕方だけは教えたって」
嬉しい事に、兵士たちは出発予定日でもないのに捕獲した軍艦を勝手に出撃させては宙賊艦を次々と持ってきてくれたのだ。
勿論ボーナスも宙賊艦を狩った数に応じて支払った。よって、兵士たちは既に領の平均年収の3割程を受け取っている計算になる。
「宙賊は領民の飯のタネだからな。軍艦を得た今ならば仕事が捗るのだろう」
「ちょっと何言ってるか分かんない」
「大丈夫だ。もうすぐあいつらがどうやって宙賊艦を捕まえたのか分かるぞ」
今日は出撃予定日なのだから。
「領民は元軍人だったりする?」
「いや? ただの農民だと思うぞ」
いちいち全員の経歴など調べている暇も金もないから知らん。
でも普段は畑を耕したり、この星に立ち寄った宙賊艦を無理矢理奪ったりするだけの温厚な人たちだと思う。
「ツバキ様。全員揃ったようです」
「ご苦労オーリエ。では戦艦バトルギャラクシスと駆逐艦ダッシュ、発進せよ」
俺は捕獲した駆逐艦に名前を付けていた。相手から船を奪取するのでダッシュと付けたのだ。
光るネーミングセンス。
「ツバキ君。右舷前方1万㎞の距離に駆逐艦2隻。王国軍の識別コードだよ」
「なら用はないな」
奪えない船と接触する意味もない。実は宙賊でしたとかだったら嬉しいけど。
「王国軍駆逐艦より通信」
一体何の用事だ?
「繋いでくれ」
キミドリに指示し、王国軍の軍艦と通信を繋いでもらった。
『貴艦は古い識別コードを使用しているな? 一体どこの誰だ?』
「俺はナガツキ男爵家当主のツバキだ」
『馬鹿を言うな。ナガツキ男爵家は貧乏過ぎてかろうじて輸送艦のみを持つだけの貴族だと有名だ。嘘をつくんじゃない』
嘘なんて言ってないんだけど。
「ツバキ君、ナガツキ家の人だったの!?」
そう言えばキミドリには言っていなかったか。
あれ? 言ったような気もするんだが……と言うか、ナガツキ家ならなんだって言うんだろ。
ナガツキ家なんて単なる貧乏貴族だ。昔は凄い貴族家だったらしいけど。
『お前がナガツキ男爵なはずはない。どこからその戦艦を手に入れた?』
「王家からお誕生日祝いで貰った」
『とんでもない大嘘つきだな。宇宙戦艦をお誕生日祝いで渡すはずがないだろ!』
「そんな事言われても」
本当の事なのに。
人の言う事を信じられないとはなんて心が貧しいんだ。だから出世せずにこんな辺境の宙域を航行しているのだろう。
「王家に問い合わせてみれば良い」
「問い合わせるまでもない。貴様が宙賊で、嘘をついているのは明らかだ」
王国軍の人間はどうも柔軟性が足りていない。
そもそも宙賊だったら堂々と軍艦と通信なんてしないって。
「あの……」
「どうしたオーリエ?」
「これ、良いんですか?」
オーリエが見ている画面を俺も覗き込んでみると、駆逐艦ダッシュが勝手に王国軍の軍艦に突撃してしまっている。
駆逐艦ダッシュと王国軍の軍艦は完全に接触し、駆逐艦ダッシュから人がわらわらと飛び出していた。
『貴様っ! やはり宙賊の類か!?』
「いや、違っ……」
『くそっ! 応戦し……ゴンッ! バタッ』
あいつら。やりやがった。
うちの兵士たちは相手の艦長を殴り倒し、軍艦を奪い取ってしまったのだ。
「軍艦をいきなり奪い取るのはマズいだろ。どうするんだよ」
「その前に兵士たちが宇宙空間を生身で移動している事に疑問を持つべきだよね?」
「それは大丈夫だ。息を止めて頑張ればそこそこ活動出来ると俺が教えておいたからな」
「馬鹿じゃないの!?」
馬鹿とはなんだ馬鹿とは。キミドリは結構辛辣なAIだな。
「こうなれば仕方ない。もう1隻も奪い取れ」
「王国軍を敵に回すよ!?」
「大丈夫だ。相手の乗組員をナガツキ領の開拓星に送れば情報はどこにも漏れる心配がない」
うちの領地は天然の情報秘匿星系だからな。
単に魔導機械が殆どないだけだが。
「やめさせて! 今からでも遅くは……」
もう遅いぞ。
「キミドリさん。既に兵士たちがもう1隻も制圧してしまったようです」
「あぁ……。ナガツキ家、終わった。せっかくナガツキ家の人に再びバトルギャラクシスを使ってもらえるようになったのに……。オーリエ、私たちも犯罪者として追われる事になるよ」
キミドリは肩を落としてオーリエに恐怖を煽るような事を言い始める。辛気臭い奴だな。
それにしても、再びって何だ?
「借金返済はまだ始まったばかりだ。キミドリも協力しろよ?」
「今からでも自首しない?」
何を馬鹿な事を。
「1568京9510兆913万リウム。キミドリが払ってくれるのか? 俺が捕まれば戦艦バトルギャラクシスをまるごと売って返済の足しにする事となり、お前のような美少女アンドロイドは男の慰み者に……」
「勿論協力するよ。水臭いねツバキ君は。私はナガツキ家の旗艦だよ? ナガツキ家のAIだよ? ナガツキ家の為には軍艦の一つや二つでガタガタ言わないって」
ガタガタ言っていたじゃないか。
と言うか、お前ナガツキ家のAIだったのかよ。
「あの奪ってしまった駆逐艦をハッキングしておけ」
「当然。バレたら敵わないもんね?」
変わり身の早い奴だ。俺は嫌いじゃないが。
追加で捕獲した軍艦2隻には新たな乗組員を10名ずつ募集し、ナガツキ軍の立派な軍艦として活躍してもらう事にした。
2隻には駆逐艦ゴーダツ、駆逐艦ブンドルという名を与え、毎日宙賊狩りに精を出してもらっている。
「ツバキ様。もう訓練はおやめになった方が良いのでは?」
「何故だオーリエ」
「その訓練内容は人間を死に至らしめるには十分です」
そうだろうか?
俺はピンピンしている。
「ご両親が亡くなられたのも、あまりのハードな訓練に耐えきれなかったからだと聞き及んでおります」
「両親は多分病弱だったのだと思う」
領都星周回マラソンの途中で死んでいたのだ。どう考えても病弱だったからに違いない。
ほんの数日間走り通しだっただけで死ぬのだから、病気としか考えられないだろう。
「領民の皆さんにも似た様な事をさせている上に、農具なしで農業をさせるのもどうかと思います。だから平均寿命が短いのでは?」
「仕方ないじゃないか。農具を買い与える金がないのだ。それに領民たちは昔からあるナガツキ体操のお蔭で健康的に過ごせているんだぞ?」
ナガツキ体操は人が生きていく上で必要になる健康的な体力と魔力を作り、心身ともに穏やかに過ごせるようになるという素晴らしい体操なのだ。
「ナガツキ体操って……あのナイトメア級の訓練がですか? 体操の域を超えていますよね? しかも宙賊艦が降りてきたら群がって宙賊を引き摺り降ろし、売れる物全てを奪い取る生活を健康的で済ますのですか?」
「元気いっぱいで大変よろしい」
平均寿命が低いのは単に貧乏で食うに困るからだろう。その辺もおいおい改善していきたい。
「どこぞの戦闘民族ですか?」
「特にそういうわけではないと思うが……。ナガツキ領に住む人間以外が病弱なんだろ」
うちの領民は貧乏なせいで無駄に鍛えられているからな。お蔭で逞しくあるとも言える。
しかし、他惑星出身のオーリエにとっては理解しがたいのも事実なのだ。きっとこれがカルチャーショックと言う奴だな。
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