第12話 「世界で一番の友達 ~ Best Friend ~」

 夕暮れの街に、カフェの灯りが優しく瞬いている。ガラス越しに見えるオレンジ色の空と、通りを行き交う人々。そんな景色を眺めながら、ミカとサクラは向かい合って座っていた。


 テーブルの上には、二人の好物のカフェラテとチーズケーキ。ミカがスプーンでケーキを一口すくって口に運ぶと、サクラはすかさず「それ、絶対世界一おいしい顔してる!」と満面の笑みで言った。


「もう、大げさすぎるってば。でも、おいしい」


「ほらね!おいしいってことは正義。間違いない!」


 ミカは苦笑しながらも、サクラの言葉にほんのり嬉しくなった。


「……ねえ、サクラって、どうしていつも私のことを全肯定してくれるの?」


 ふと、ミカは気になっていたことを口にした。


「ん? だってミカは最高だから!」


 即答するサクラに、ミカは頬をふくらませる。


「そういうことじゃなくて……。私、別にすごい人間でもないし、失敗もたくさんするし、ダメなところもあるでしょ?」


「あるよ?」


 あっさり言われて、ミカはずっこけそうになった。


「え、あるんだ……」


「そりゃあね。でも、ミカはミカだから。それが最高なの!」


「……うーん、理屈がよくわからないんだけど」


「理屈じゃないの!たとえばさ、世界にたった一つしかない宝物があったら、それって価値があるでしょ?ミカもそういうこと。唯一無二の存在なんだもん!」


 サクラはニコニコしながら、カフェラテをひと口飲んだ。


「……なんか、すごい理論だけど、悪い気はしないね」


「でしょ? 私はミカの世界一の友達だからね!」


 サクラは自信満々に親指を立てる。


 そんな二人のやりとりを隣の席で聞いていた男性が、思わず口を挟んだ。


「いやいや、俺も親友いるし、大切な人いるよ?」


 すると、サクラはチーズケーキを口に運びながら、「へぇ、そうなんだ」と適当に流した。


「え、なにその雑な反応!」


 男性が驚くと、ミカは吹き出しそうになりながらサクラを見る。


「……ねえ、今のはもうちょっと興味持ってあげてもよくない?」


「え? だって知らない人の話より、ミカの方が大事だもん!」


 そう言ってサクラはニッと笑う。


 ミカは呆れながらも、心の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じた。


「ほんと、サクラって変な人。でも……そういうとこ、好きだよ」


「お、告白?」


「違うから!」


 二人の笑い声が、カフェの中に優しく響いた。


 世界にたった一人、自分のすべてを肯定してくれる友達。それは、何よりも尊い宝物。


 そんな奇跡みたいな存在が、自分の隣にいる。そう思えたことが、ミカにとって何より幸せだった。


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『全肯定ガールズ! 〜アンタの味方は私だけ〜』 Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter

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