第11話 「夕日とリスタートの誓い」

 夏の終わりを告げる夕暮れのグラウンド。

 空は茜色に染まり、部活終わりの生徒たちが汗を拭いながら帰り支度をしている。その中で、一人だけうなだれている少女――サクラ。


「……負けた」


 彼女の手には、今日の試合のスコア表。

 決勝戦まで勝ち進んだものの、あと一歩のところで敗れてしまった。

 全力を尽くしたつもりだった。なのに、結果は準優勝。


「サクラ!!」


 元気いっぱいの声が響く。

 振り向くと、ミカが駆け寄ってきた。


「いやー、惜しかったね! でも、めっちゃいい試合だったよ!」

「……うん。でも、やっぱり勝ちたかった」


 サクラは唇を噛みしめる。

 努力してきた分、悔しさが募る。


 すると、ミカはニッと笑って言った。


「まあまあ! これはイベントの一つだよ!」

「……イベント?」

「そう! RPGだってさ、ラスボスに一回負けたらレベル上げするでしょ? それと同じ! つまり、今回の試合はサクラのレベルアップイベント!」


 サクラは思わず吹き出しそうになる。


「そんな軽いものなの?」

「軽いかどうかじゃないの! これを経験値にするか、ただの敗北にするかはサクラ次第!」


 ミカは胸を張る。


「しかも、準優勝だよ!? もう、実質優勝!」

「実質?」

「だってさ、決勝戦に行った時点で、他のチームより上なんだから! ほぼ優勝みたいなもんじゃん!」


 その理屈は正しいのかどうかわからない。

 でも、ミカが言うと、そんな気もしてくるから不思議だ。


「……そっか。じゃあ、次は本当の優勝目指す!」


 サクラが力強く拳を握ると、ミカが満面の笑みで頷いた。


「そうこなくっちゃ!」


 その時、近くから聞こえてくる声。


「試合なんて別にどうでもいいんじゃね?」


 同じ部活のカズキがのんびりとベンチに座りながら言う。


「は? それは違うよ」


 ミカの声がピシャリと響く。


「試合がどうでもいいなんてことはないの! 本気でやったからこそ意味があるの!」

「え、でも結局負けたんだし、そんな気にしなくても……」

「違う! 負けても意味があるの! それが経験値になるの!」


 カズキは「えぇ……」と肩を落とす。


「サクラの負けは経験値。だけど、カズキの『試合なんてどうでもいい』はただのノーゲーム!」

「ノーゲーム……?」

「うん! 何も得るものがないただの時間の経過!」


 ミカが言い切ると、カズキは小さく「理不尽だ……」と呟いた。


 サクラはそんな二人のやりとりを聞きながら、少しずつ気持ちが晴れていくのを感じる。


「……よし! 次こそは絶対優勝!」


 夕日に向かって、サクラは高らかに宣言した。

 その隣で、ミカが嬉しそうに笑っていた。


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