第2話


月明かりが刀の刃に鈍い輝きを宿す。



片桐玄一は細目の奥で静かに相手を見据える。手には研ぎ澄まされた居合刀。


向かい合うのは、浪人姿の男――蓬髪乱れ、薄汚れた無地の着物が血に染まっている。


「……お前が“闇鴉”か?」


男の声は荒い。右手に握られた刀は返り血でべっとり濡れ、地面に一筋の赤い跡を引いている。


「せやけど……そないに急かんでも、死ぬんは変わらへん。」


玄一は微かに笑い、鞘に納めた刀を握り直す。


「ほぉ……その余裕、どこまで保つつもりだ?」


浪人の目が爛々と光る。瞬間――


シュッ!


風が切り裂かれる音とともに、男の刀が水平に走る。


「遅いどすえ。」


玄一は紙一重でかわしつつ、後ろへ一歩跳び退る。そのまま足を滑らせるように低く構え、居合の体勢に入った。


「はぁ……そないに余裕ぶっこいとると……」


「油断したら首、飛びまっせ。」


鋭い眼差しで睨みつける玄一。


男の表情が引きつった。


ヒュン――


玄一の刀が、鞘から一瞬で解き放たれた。


「ッ――!」


浪人が防ごうとするが、玄一の抜き打ちは速すぎた。


キィィンッ!


刃と刃が火花を散らす。


「おぉ……やるやないか。」


男の腕が微かに震えていた。受け止めはしたものの、明らかに手首に負荷がかかっている。


「ほな、次はどないします?」


玄一は軽く息を吐き、再び鞘へと刀を納める。


「くっ……!」


男は前へ踏み込む。今度は全力――殺意を帯びた突き。


スッ――


だが、玄一は静かに一歩斜めにかわし、


「――遅い言うたのに。」


刹那、閃光が走る。


シュパッ!


男の腕から血が噴き出す。


「ぐあぁっ!!」


浪人は膝をつき、刀を取り落とした。


「京の町で血生臭い真似は控えなはれ。」


玄一は刀を払うと、無情に告げる。


「二度とこの町で人殺しは、せんことどす。」


男が呻き声をあげる中、玄一は振り返らず去っていった――


月明かりが、血の滴る路地を冷たく照らしていた。



せやけど、なんで奴はウチが“闇鴉”やって知っとったんやろか……?


ウチを探しておった……?

そんなわけあらへんか……




―――――――――――――――――


月影内は今日も人だかり。

その中には成瀬と玄一が話していた


「噂になってたヤツ、逮捕されたらしいけど、あんたがやったん?」


「せや。京の町脅かす奴どす。生かしといたらあきまへんのや。」


とテキパキと手を動かしながら話す。


「そない言うてる暇あったら、あんさんも手ぇ貸しなはれ。」


「へいへい……」


そう言い成瀬も接客を手伝うのだった。


成瀬がふと外を見ると女性達が月影に寄って集っていた。


「玄一……お前、あれ」

そう言い成瀬は女性達に指を指す。

玄一は指されている方を見て手を振る。

女性は

「きゃぁぁ!!こっち見て!!!!」


と興奮していた。


「玄一…お前、なんであんなにモテるんだよ」


「生まれつきどすさかい、しゃあないどすわ」


「……お前今、京の町の皆を敵に回したな?」


「お前さん、嫉妬はあきまへんで」


成瀬は玄一の背中をポコポコと殴りながら泣いたのだった。


―――――――――――――――――

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