第43話 黒の列、光の兆し
ロビーは、再び戦場と化していた。
リクと大岩の壮絶な殴り合い。 仲間たちとミヤシマ興産の残党との激突。
勝利の女神は、どちらにも笑っていなかった。
「くそっ、押し返せ! まとめて倒せぇっ!!」
リクの仲間――元暴走族の仲間たちは、全員が傷ついていた。
額から血を流す者。 腕を押さえながら、それでも拳を振るう者。
それでも、誰一人として引こうとはしなかった。
「リクが……リクが前にいる限り、俺らは止まんねぇんだよ!!」
仲間の叫びがこだまする。
だが、現実は厳しかった。
人数。 体力。 そして、経験。
相手は元プロやヤクザ上がりの連中ばかり。
善戦はしていた。 だが、押し返すほどの力はもう残っていなかった。
そして――
その中心で、大岩とリクが激突を続けていた。
拳と拳がぶつかるたび、鈍い音がロビーに響く。
ドガッ!!
バギィッ!!
リクの右ストレートが、大岩の頬を裂いた。
だが、大岩の拳はリクの腹をえぐった。
「ぐっ……ぉあっ!!」
リクの膝が、ついに地をついた。
「……まだ、だ」
立ち上がる。
フラつく足。
だが、その眼は死んでいなかった。
「しぶといな、ガキ……」
大岩の息も荒い。 リクの連撃は、確実に効いていた。
しかし、限界は近づいていた。
「ここで……俺が止まれば……誠さんが、やつらの元にたどり着けなくなる……」
リクは自分を鼓舞し、最後の力を振り絞って拳を握った。
「……俺は! この町を守るって決めたんだ!!!」
吠える。
全身の力を拳に込めて――
大岩に突っ込む。
「おおおおおおっ!!!」
だが、大岩はその拳を避けずに受けた。
そして、そのまま拳を返す。
リクの顔面に重たい拳が直撃。
視界がぐらついた。
(……もう、ダメか)
その時だった。
キイィィィィ……ッ……。
高いブレーキ音。
「ん……?」
誰かが小さく呟いたその瞬間。
ロビーの前。
ガラス越しに見えた。
黒塗りの車。
しかも、1台や2台じゃない。
次々に連なって、ビルの前に停車していく。
1台。 2台。 3台……10台。
それはまるで、黒い壁が築かれるようだった。
戦っていた誰もが、その異様な気配に動きを止める。
ドアが次々と開いた。
黒いスーツ。 革靴の音。 鋭い眼光。
中から降りてきたのは、ひと目でただ者ではないと分かる連中だった。
「なんだ……あいつら……」
「援軍……か……?」
リクが、ふらつきながら目を向ける。
その先頭にいたのは、60代後半の渋い男。
堂々とした立ち振る舞い。
だが、肩を少しだけ揺らしながら歩くその姿は、まぎれもなく“昔の男”だった。
「三國……丈太郎……?」
仲間の誰かが呟いた。
そう。 誠のかつての親分。 そして、圭吾の父。
「……遅くなったな、ガキ共」
三國が低く呟いた。
「そこの大岩とか言ったか。 うちの若ぇのをいじめてくれたらしいな」
「……あんたは」
大岩が目を細める。
「“昔の人間”だ。だがな、今のこの街を好き勝手されるのは、見てられねぇんだよ」
黒服たちが一斉に構える。
その数、20人近く。
全員、現場を知る“喧嘩屋”ばかり。
「こっから先は、こっちの番だ」
リクの肩を誰かが支える。
「……よくやったな、坊主」
リクは、震える唇で応えた。
「……後は……お願いします」
そして、彼はその場に膝をついた。
黒の列が、ロビーに入っていく。
それはまるで、闇に包まれた道に、光が差し込むような光景だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます