第42話 背負って立つ者
乱戦のロビー。
誠、圭吾、リク、そして元暴走族の仲間たち。 敵の数は多いが、士気はこちらが圧倒的に上回っていた。
倒れていく敵たち、後退する敵陣。
その中で、リクは荒い息を吐きながら、一瞬だけ肩を下ろした。
「ふぅ……まだまだ、いける……」
だが、その時。
ズシン。
ロビーの奥。
重たい足音が響いた。
その気配に、場の空気が一変する。
仲間たちの動きが止まり、敵も動きを止めた。
ただ一人、ゆっくりと前に出てきた男がいた。
大柄な体格、スーツ姿。 スキンヘッドに近い短髪、鋭い目つき。
「……お前か」
リクが呟いた。
男の名は――大岩隼人(おおいわ はやと)
ミヤシマ興産の実戦部隊を統括する、現場の“番犬”。
かつて、リクが全力で挑んでも歯が立たなかった相手。
大岩は、無言でジャケットを脱ぎ、袖をまくった。
「また出てきやがったか……お前だけは、絶対に倒す」
リクが拳を握る。
「前は、完敗だった。 でもな……あれから、俺はもう逃げねぇって決めたんだよ!」
「……しゃべりすぎだ、ガキ」
大岩の拳が唸った。
ゴッ!!
空気が鳴る。
リクはそれをギリギリで避け、カウンターの膝蹴りを返す。
だが、大岩は微動だにせず、肘でリクの太ももを押し返した。
「ッ……ぐっ!」
圧倒的な力。
だがリクは引かない。 すぐに距離を詰め、パンチの連打。
左右、フック、ストレート。
拳を浴びせるも、大岩は腕をクロスして受け流し、逆に腹へ一撃。
ドスッ!!
「がっ……!」
リクの体が後方に滑る。 だが、倒れない。
「立てるか、リク!」
仲間たちが叫ぶ。
「当たり前だろ……ここで俺が、倒れるわけにいかねぇんだよ!」
再び突っ込む。
リクの拳が、今度は大岩の顎をかすめた。
そして、すかさず足を払う。
大岩のバランスが崩れた瞬間。
リクが肩に体重をかけ、地面に叩きつけようとする。
だが――
「甘ぇな!」
大岩は身体を捻ってリクを跳ね返す。
「ぐっ……!」
ロビーの床を転がるリク。
血を吐きながら、それでも立ち上がる。
「しぶてぇガキだな……」
「お前が……お前らが好き勝手していい街じゃねぇんだよ……!」
リクの目には、もう迷いはなかった。
その背中を見た誠が、思わず声を上げる。
「リク、もういい! 無理するな、ここは――」
だが、リクは首を横に振った。
「誠さん! ここは……俺たちに任せてください!」
誠と圭吾が目を見開く。
「俺たちが食い止める! だから……誠さんたちは、あいつらのとこに行ってください!!」
誠は迷う。 だが、リクの眼差しに嘘はなかった。
仲間たちも、彼を支えるように背中を預けて立っていた。
「……分かった。 だが、絶対に無理すんな。死ぬなよ」
「もちろん! 俺は、まだやることが山ほどあるんでね!」
誠と圭吾は階段へ向かって走り出す。
背後で、再び拳と怒号がぶつかり合う音が響いた。
リクが立っていた。
その拳は震えていたが、絶対に崩れない芯があった。
「大岩……今度は俺が、勝つ!!」
そして、新たな激しい殴り合いが始まった。
ロビーの戦いは、再び熱を帯びる。 だが、誠と圭吾はもう後ろを振り返らなかった。
仲間を信じ、彼らは上を目指していく。
その先には、鬼塚。 そして、影山と佐伯が待っている。
――決戦は、もうすぐだった。
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