第41話 轟音は援軍の合図
ミヤシマ興産・一階ロビー。
15人の“警備”を蹴散らした誠と圭吾は、ゆっくりと奥の階段へと足を向けていた。
二階、そして最上階へ。 そこには鬼塚、影山、そして佐伯が待っている。
――しかし。
「足音が……多すぎる」
圭吾が立ち止まり、眉をひそめる。
その言葉と同時に、階段の上から複数の靴音が響いてきた。
ドンドン、バタバタバタ……!!
「来るぞ、誠さん!」
その瞬間、上の階から続々と降りてくる影。
一人、二人、十人――いや、三十、いや四十……
スーツ姿にワイシャツ、袖をまくり上げた男たちが、次々と階段を駆け下りてくる。
その数、三十人を超えていた。
明らかに普通の社員ではない。 動きに迷いがなく、全員が“使い慣れた暴力”の空気を纏っていた。
佐伯の実働部隊――最終防衛線。
「来やがったな……っ!」
誠は前に出て、最初の一人の拳をかわしながら肘で顎を打ち抜く。 そのまま後方の敵を牽制しつつ、別の男の腹に膝を叩き込む。
圭吾も応戦。 低い姿勢で回り込み、二人の足を同時に払って転倒させると、起き上がった相手の喉元へ掌底一閃。
だが、敵の数は減らない。
「次から次へと……きりがないっすよ!」
「構うな、まとめて潰す!!」
誠の拳が、次々と敵を薙ぎ倒していく。 だが、倒した端から新手が現れる。
狭いロビーの空間は、瞬く間に乱戦の渦に包まれた。
「……ちっ!」
誠の頬に初めての拳がかすめる。 圭吾のジャケットが引き裂かれる。
徐々に距離が開き始めた。 ふたりは背中合わせで戦いながら、じりじりと押し込まれていく。
「誠さん、ちょっとマズいかも……!」
「気合いで持たせろ! ここで倒れるわけにゃいかねぇ……!」
その時だった。
――ババババババババッ!!!
外から爆音。
爆音。
バイクのエンジン音が、ロビーのガラスを震わせるほどに響いてくる。
誰もが一瞬、動きを止めた。
そして、その音はビルの前で止まった。
「……まさか」
誠が振り返ったその先。
自動ドアが開く音。
そして――
「よぉ、遅れて悪ぃ」
リクだった。
病院のジャージ姿のまま、胸にはまだ包帯。 だが、鋭く目を見開き、背筋を伸ばし、ロビーに一歩を踏み出してきた。
その背後には、十数人の男たち。
かつての暴走族の仲間たち。
彼らは、もう“走り屋”ではない。
今は――街のために走る“同志”だった。
「なにやってんすか、誠さん。 俺たちが来てんのに、楽しそうに暴れてんじゃねぇっすよ」
誠は笑った。
「……お前、肋骨はどうした」
「へへ、医者が言ってました。 “無茶しなきゃ歩ける”って」
「それ、無茶してるんじゃねぇのか」
「んな細けぇこと気にしてたら、この街守れませんって」
リクが仲間たちに一声かける。
「行くぞ、全員! このビルの中、全部片付ける!」
「おう!!」
バイクジャケットにツナギ姿、改造ヘルメットを脱いだ奴ら。 元暴走族の精鋭が、ロビーへ突入する。
敵の戦力が再び動き出した。 だが、もはや数ではない。
「こっちはこっちで、こってり煮込んでやるよ!!」
「うおおおおおっ!!!」
リクの叫びに呼応するように、仲間たちが突進。
一気に乱戦の流れが変わった。
敵が蹴り倒され、投げられ、床に転がる。
ロビーの奥では誠と圭吾が立ち直り、再び連携攻撃。
「リク、助かった!」
「任せてください!! こっからが俺の番っす!!」
圭吾が拳を振るいながら、笑う。
「こりゃ、勢いに乗るしかねぇな……!」
ロビーが、戦場と化す。 だが、今その中心にいるのは――“希望”を持った者たちだった。
その轟音と叫びは、ビルの上階にまで届いていた。
影山が目を細め、鬼塚が腕を組んだまま言った。
「……来やがったな、本物が」
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