第40話 静かなる突破
ミヤシマ興産・南関東支社。
その正面玄関前。
夕暮れに染まるビルの影が長く伸びる中、ふたりの男が無言で立っていた。
長谷川誠。 三國圭吾。
圭吾は黒のパーカーにジーンズ、誠はいつものスーツ姿。 彼らの前には、分厚く構える男たちの壁。 佐伯が配置した“警備”という名の実働部隊――総勢15人。
皆、無線機と警棒、スタンガンのような装備を所持し、目つきは明らかに“街の警備員”ではなかった。
「……予想通りだな」
圭吾がポツリと呟く。
「こいつらは止める気なんかねぇ。 始めから、ここで潰すつもりだ」
「潰される気はねぇよ」
誠が静かに答えた。
「行くぞ」
一歩。
そして、もう一歩。
ふたりが前進するのと同時に、男たちが一斉に動き出した。
「来たぞ、構えろッ!!」
「撃て!!」
いきなり飛んでくるスタンガン。 誠が前に出て、それを手の甲で弾き落とす。 すかさず右ストレートを顎に叩き込み、最前線の一人が吹き飛ぶ。
「ぐあっ!!」
そのまま回し蹴り。 さらに二人をなぎ倒す。
圭吾は左側から回り込んで、敵の懐に潜り込むと、素早く肘打ちで胸元を打ち抜き、そのまま倒れた相手の足を引き、バランスを崩した別の男を地面に叩きつける。
「やるじゃねぇか、圭吾!」
「まだまだ、誠さんには遠いですけどね!」
左右から囲もうとする敵に対し、誠は低くしゃがみ込み、片足を軸にしてスピンキック。 4人まとめて脚を払われて地面に転がる。
「くそっ、距離を取れ!!一人ずつじゃ無理だ!!」
叫ぶ男に圭吾が接近。 拳を引き、体重を乗せた正拳突きが腹に炸裂。 相手の目が白くなり、その場に崩れ落ちる。
「誠、右!」
圭吾の声に反応し、誠が素早く左肘を反転。 迫ってきた別の男の顔面に直撃。 鼻血を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
「こいつら、慣れてやがる……!」
「いい目だ。警備員なんかじゃねぇな、元ヤクザか?」
誠の声に、圭吾が軽く息を整える。
「さっきから“狙い”が的確すぎる。 手加減なしってわけですね」
「だったら、こっちも遠慮する理由はねぇな」
再び突っ込む誠。
前に出た4人を相手に、圧倒的な速度と精度で一人ずつ仕留めていく。
顎→腹→脇腹→膝。
一発ごとに確実にダメージを与え、再起不能にしていく。
圭吾も側面から飛び込んできた男を投げ飛ばし、地面に倒れた相手の肘を軽く押さえ、痛みで動けなくさせる。
「……っ、もう10人近くやられたぞ!!」
残る数人が、明らかに動揺している。
誠がゆっくりと歩み寄る。
その目には怒りも焦りもない。 ただ、“静かなる圧”だけがあった。
「これ以上やる気があるなら……構え直せ」
そう呟いたその瞬間――
「うわあああっ!!」
残ったひとりが叫びながら突進してくる。 拳を振り上げ、渾身の力で誠に向かって――
だが、その拳は当たらなかった。
誠はその腕を軽くかわし、肩を取って後方に転がす。
「ぐっ……がっ……」
そのまま地面に背中を打ちつけ、呻き声をあげる。
残りの者たちは、もう動けなかった。
誠と圭吾のふたりだけで、15人を完全に制圧した。
静かになったロビーの前。
誠は、コツリと靴音を響かせながら進む。
「……ここからが本番だ」
圭吾もまた、静かに頷いた。
ふたりは、正面の自動ドアを超え、ミヤシマ興産の本丸へと足を踏み入れた。
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