第37話 背中を預ける相手
翌朝、誠は重たい足取りで一軒の古びた一軒家を訪れていた。
門柱に書かれた名前は「三國」。
そう、かつての親分――三國丈太郎の家だ。
一礼してインターホンを押す。 扉が開くと、老いた三國がゆっくりと顔を出した。
「……おう、誠か」
「お時間、いただけますか」
「まぁ、上がれ」
居間に通され、煎茶が一杯差し出された。 誠はそれを受け取って、深く頭を下げた。
「すみません……土地の件、思うように進んでいません」
「……そうか」
誠は、あのあといくつかの地権者と交渉したが、資金が追いつかず一部がミヤシマ側に流れてしまったことを正直に話した。
「俺の読みが甘かった。 もっと早く、強く動くべきだったのかもしれません」
三國はしばらく黙って、誠の話を聞いていた。
そして静かに、煙草に火をつけた。
「……で、誠」
「はい」
「お前、鬼塚と影山と戦いに行く気なんだろ」
誠は返事をしなかった。 だが、その沈黙が答えだった。
三國は深く息を吐き、紫煙を宙に漂わせた。
「ひとりじゃ、無理だ」
「分かってます。でも、これは俺の――」
「……誠。お前、相変わらず“全部”背負い込む癖が抜けねぇな」
その言葉に、誠の手が止まる。
三國は立ち上がり、奥の部屋に向かった。
「ちょっと待ってろ」
しばらくして、若い足音が近づいてくる。 そして居間の襖が開き、ひとりの青年が現れた。
鋭い目つき、がっしりとした体格。 だがその佇まいには、どこか誠に似た“静かさ”があった。
「こいつを連れてけ」
「……は?」
「うちの息子だ。 三國圭吾。跡を継がせるつもりはなかったが、まあ……血は争えねぇらしい」
圭吾は軽く会釈した。
「……初めまして、長谷川さん。 親父から、昔の話はよく聞いてます」
「圭吾、お前、本当にいいのか?」
「もちろん。俺にも、守りてぇもんができたんで」
誠は立ち上がり、圭吾と向かい合う。 その目の奥にあったものは、覚悟だった。
「……頼りにする」
「背中は任せてください」
老いた三國は、その二人の姿を静かに見つめながら、また煙草に火をつけた。
「……ま、せいぜい派手にやってこい」
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