第28話 地を守るために、頭を下げる
「――これが、動いてる土地の一覧だ」
ウッシーが手渡してきたのは、数枚の紙だった。
ファイルに綴じられたそのコピー用紙には、見慣れた地番と、いくつもの“移転予定”の印。
誠は無言でページをめくっていた。
「全部がまだ確定じゃない。だが、このままだと……ここ数週間で一帯、まるごと飲まれる」
その“まるごと”の中に、スナック『しずく』の住所もあった。
……読めていたはずだ。
なのに、文字になって突きつけられると、胸に冷たいものが走った。
「契約の一部は“委任状あり”で動かされてる。
つまり、知らないうちに所有者の名前が書き換わる仕組みだ。
法的におかしくはない。……だから、止めにくい」
誠は書類の端に指をかけて、無言でしばらく見つめていた。
(ミヤシマは、“本気”で来てる)
「……そのリスト。俺に預けておいてくれ」
ウッシーは一瞬目を細めたが、すぐに頷いた。
「……で、お前はどうするつもりだ? “どつき合い”じゃ止まらねぇぞ、これは」
「……金だ」
短い言葉に、ウッシーの眉が動く。
「……“買う”ってことか?」
「ああ。買って、抑える。ミヤシマより先に。
それしかない」
「……正気か? 個人で動かせる額じゃねぇぞ、ここの土地は」
誠は立ち上がった。
「個人じゃない。……昔のツテを使う」
ウッシーの表情が変わった。
それが、何を意味しているかすぐに理解したからだ。
「……お前、あそこに行くつもりか」
「ああ。頭、下げに行くよ」
その言葉には、迷いはなかった。
誠はファイルを手に取り、ゆっくりと歩き出す。
「……“守る”ってのは、綺麗な話じゃ済まねぇってことくらい、俺も分かってる。
だけど、もうこの町を誰にも触らせたくねぇんだ」
ウッシーは、ため息をつきながら、古びた机に体を預けた。
「……まったく、お前ってヤツは。
だが――そういうとこが、お前なんだよな」
店を出た誠の背中は、
静かに、でも確実に、“ひとつの闘い”に向かっていた。
次の相手は、拳じゃ崩せない。
それでも――
守るべきもののために、彼は頭を下げることを選んだ。
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