第27話 報せは、静かに火を灯す(中編)
誠が椅子に腰を下ろすと、ウッシーは軽く鼻を鳴らし、
机の上に分厚いファイルをドンと置いた。
「まずは表の話からだ。ミヤシマ興産――表向きは“都市再生支援”の会社。
地元の再開発に参入して、古い商店街を新しい施設に建て替えるのが名目になってる」
ウッシーは一枚のパンフレットを取り出した。
そこには、きれいにレンダリングされた“再開発後の街並み”が描かれていた。
ガラス張りのビル、整備された遊歩道、無機質なチェーン店。
「地元向けの説明会では“活性化”だの“未来への投資”だの言ってるが、
中身はただの地上げ屋だ。
で――その現場を取り仕切ってるのが、お前の知ってる男、佐伯雅仁」
誠の目がわずかに細くなる。
「佐伯は“表”の顔を持ってる。元ヤクザって肩書きも消して、今じゃ立派な企業人さ。
でもな……こいつが使ってる手口は、昔となんも変わっちゃいねぇ」
ウッシーは次に、印刷された契約書のコピーを数枚広げた。
「ここ最近、この一帯――特に『しずく』がある通りの権利が、
“第三者”名義で次々に移動してる。
名義だけ違うが、全部、ミヤシマが裏で買ってる形だ。
地元住民が気づかねぇうちに、土地ごと飲み込まれつつある」
「……合法的に?」
「ああ。まっとうに見せかけて、きっちりと。
しかも、周囲には“嫌がらせ”や“火災リスク”の噂まで流して、
持ち主に“不安”と“焦り”を植え付けて売らせてる」
誠は黙ったまま、手元の契約書を一枚、静かに手に取る。
ウッシーは、そのまま声を低めた。
「……で。鬼塚と影山だ」
ページをめくる音が、重く響いた。
「こいつらの動きが確認されたのは、今回の地上げとは別件での再開発が潰された直後だ。
つまり、“前科あり”ってこと。
現地で抵抗した町内会の幹部が、何者かに脅されて撤退した――それが2年前」
「名前は?」
「表には出てない。完全に“影”の仕事として処理されてる。
でも、関係者の証言、監視カメラ、そして……その“やり口”が一致してる」
ウッシーは、画面に映し出された写真を指さした。
そこに映っていたのは、鬼塚と思われる男が遠目に映ったもの。
レザージャケット、スキンヘッド、隣には黒いコート姿の影山。
「鬼塚は“現場で荒らす”役。
影山は“下準備と脅しの設計”担当だ。
昔のやり方と同じ。役割が分かれてて、手口が無駄に洗練されてる」
誠は画面をじっと見つめながら、小さく呟いた。
「……変わってねぇな、あいつら」
「変わったのは、味方が減ったことだけさ。
あいつらが潰した地元の町……今じゃ“再開発成功例”としてデータにすら残ってる。
泣いた人間の声なんか、どこにも残らねぇ」
しばらくの沈黙。
ウッシーはカップのコーヒーを飲み干しながら、最後に言った。
「で、今――“ここ”が狙われてる。
誠、お前が守ろうとしてる、この町が」
誠は書類をそっと置いた。
その目には、怒りではなく、ただ深く静かな決意があった。
「……わかった。あとは、俺が動く」
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