第23話 恐れよりも、背中を思い出せ

ミヤシマ興産の手下たちは、すべて路地に倒れていた。


拳をぶつけた感触が、まだリクの手に残っている。

息が上がり、汗が背中を伝う。


だが、空気はまだ終わっていなかった。


黒い高級車――

その奥のドアが、静かに開いた。


コツ、コツ……。


重い革靴の音とともに、ひとりの男が姿を現す。


長身、スーツ、だが肩のラインはまるで戦車のように分厚く、

ツルリと剃られたスキンヘッドに、いくつもの傷跡。

ただ立っているだけで、地面が沈んだような“質量”があった。


「……やるな、ガキ」


低く、喉を震わせるような声。

その顔に、ほんのわずか、興味を持ったような笑み。


リクは、無意識に一歩後ずさる。

額から汗が一筋、頬を流れ落ちた。


(……なんだ、この圧)


“敵”として認識した時点で、体が本能的に警告を鳴らす。


だが、逃げる気はなかった。

拳を握り、息を整え、もう一度構え直す。


「来いよ…」


睨み合い――

そのまま、幹部が一気に距離を詰める。


ゴッ――!!


重い拳が、腹を抉った。

リクの体がくの字に折れる。


「ッ……ぐ……ッ!」


膝をつきかけたが、踏みとどまり――

反撃の拳を叩き込む。


右ストレート、左のフック、回し蹴り!


だが――効かない。


幹部はそれをまともに受けながらも、顔色ひとつ変えない。


「……軽いな、全部が」


ドゴッ!!


次の瞬間、頬を打ち抜かれた。

視界がグラつく。

よろめきながらも、リクはなんとか立ち上がる。


「まだだ……終わっちゃいねぇ……ッ!」


無理やり拳を振るい、殴る、殴る――だが通らない。

幹部は、一発で距離を詰め、肋骨に膝を叩き込んだ。


「がはっ……!」


リクの背中が壁に叩きつけられ、崩れ落ちそうになる。


(こんなに……ちがうのか。

 俺の力って、まだこの程度なのか……)


だけど――


“背中”が浮かんだ。


あの姿。

あの背中。


「誠さんの……背中に、並ぶって……

 俺は……ッ! 決めたんだよッ!!」


再び立ち上がろうとしたそのとき、

幹部が腕を振り上げた――


「おしまいだ、“夢見がちなガキ”」


拳が振り下ろされる、瞬間――


コツ…コツ…と、路地にまた別の足音が響いた。

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