第22話 背中に追いつくために

夕暮れの街。

ネオンが灯りはじめる前の、ほんの一瞬の静寂。


誠は黙って歩いていた。

スナック『しずく』を出てから、足は自然と商店街の裏手に向かっていた。


路地の角を曲がろうとしたとき――

鋭い声が耳に飛び込んできた。


「もう何度も言ったろ! 俺らはもう、あんたらには従わねぇ!」


誠の足が止まる。


声の主は、リクだった。


薄暗い路地の奥。

リクが、ミヤシマ興産の手下たち五人に囲まれていた。


その顔ぶれの中には、以前『しずく』に現れたチンピラの一人もいる。


「誠がついてるからって、イキがってんのかよ?」

男がにやつきながら言う。


リクは鼻で笑った。


「違ぇよ。誠さんがいなくても――

 あんたらくらいなら、一人で十分だって言ってんだよ」


ピリ、と空気が張り詰めた。


誠は路地の入口に立ち、腕を組んだまま黙ってその様子を見ていた。


リクが革ジャンのジッパーを軽く下ろし、体を低く構える。


「まとめて来いよ。遠慮すんな」


「てめぇ……調子乗ってんじゃねえぞ!」


ミヤシマの男たちが一斉に飛びかかる。


一人が殴りかかる――リクはそれを頭を低くして潜り抜け、

肘で腹を突き上げる!


「ぐっ……!」


もう一人が後ろから蹴りを入れようとした瞬間、

リクは体を捻って受け流し、地面に転がしながら拳を叩き込む。


「さっき言ったろ? 一人で十分だって」


蹴り、肘、回し打ち。

リクの動きは粗いが迷いがない。

以前のような“力任せ”ではなく、何かを守るための意思があった。


三人目がバールを振りかざす――

が、その腕をリクは正面から受け止め、逆手で関節を極める。


「っ……くそ……!」


最後の二人が躊躇して動けずにいる。


誠は、静かに煙草を取り出した。

火をつけず、ただ指の間で転がす。


(変わったな、リク……)


かつてのリクなら、感情のまま突っ込んでいた。

だが今のリクは、明らかに“何か”を背負っている。


リクが倒れた男たちを見下ろし、息を整える。


「もう……ここは、お前らの好きにはさせねぇ」

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