第45話

「愛…そろそろ本当の事を話してくれても良い頃だろ?」

 清一郎の声は非常にやわらかだった。

「本当の事って……」

 愛丸はギョッとして清一郎を直視した。

 清一郎も愛丸をじっと見詰めている。何もかも見通している様な清一郎の瞳はあくまでも優しく、決して愛丸を責めてはいなかった。

「御免……レイが記憶喪失だというのは嘘なんだ……」

 愛丸は観念したのかうなだれてぽつりと言った。

「その事なら始めっから分ってたよ」

「えっ……」

 愛丸は驚いて顔を上げた。

「愛がレイを家へ連れて来た日のことを憶えてるか?」

 清一郎は静かに問い掛ける。

「うん。忘れる訳ない」

「あの時私は記憶喪失について少し話しをしたね?記憶喪失は正気を保つ為の代償のようなものだと……」

「うん、憶えてるよ」

「その後愛は何と言った?」

「要するに現実逃避だと…」

「そうだ。それで嘘だと分った」

「えっ、どうして…?」

「愛は優しい子だ。もしレイが本当に記憶喪失ならお前がそんな無神経なことを言う筈がない、愛のことは誰よりもこの私が一番良く分っているんだからな」

「兄貴……」

「お前が嘘を吐くからにはそれなりの訳が有るのだろう…そう思って何も訊かずにいた。だがな…もう…話してくれても良いだろ?」

 そう言った清一郎は愛丸を見詰めたまま優しく微笑んだ。

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